毎晩8時頃寝て1時か2時に起きるパターン。それから少しメールなど見たり書いたり、そして4時頃から2時間程度寝足す。夕べ1時前に目を覚ますと病人が唸っている。寝た状態で、唾液が溢れ出るので息が苦しい。歯をがちがちと軋らせて口内か唇を噛んで血を少し流している。やがて唇が片方に寄って三角にひん曲がったまま元に戻らない。娘は落ち着いていて「リラックリラックス」となだめながら、血を拭いて、だらんと曲がり気味の首をまっすぐにするように余分の枕を下に入れて高くしたりして、ようやく一難去った。

 時間にすれば短かったのだが、始めての発作だったので私はただオロオロ、役立たず。「硬化症」の名の通り、ゆがんだ唇がいっとき硬化した感じだった。あの時間、娘がまだ起きてパソコンしていたので異常に気付いたが、みなが寝静まっていた時間だったらどうなっていただろう。いままではただ動かすのが面倒な病人だと思っていた。が、こんな病的症状を見ると、この先、どうしたらいいのかと悩んでしまう。素人では面倒見切れない段階に来ているのではなかろうか。人々は施設へ入れるべきとアドバイスしてくれている。

 しかし、子供たちが承知しない。二人が病人を扱うのを見ていると、まるきりのプロ。見とれてしまう。辛抱強くてやさしくて、かわいそうなくらい。これだもの、病人は居心地よくて、施設などに行きたくない。でもこの先いつまで続くかわからないのだから、神経が持たない。私がこうしてイギリス通いをしているのは、勿論、家族の一員としての責任を果たすためだが、他にもう一つ。全国民とあけぼの会会員に、会長は家庭のつとめもちゃんとするリッパな人だ、と見直してほしいという下心があったことを今告白する。

 久しぶりに郊外のミヨコさんの家でおいしいランチを食べさせてもらってきた。今回のおみやげはまた松本清張。「ゼロの焦点」と「黒皮の手帳」(BOOK OFFで買った)。今頃すっかり清張に凝っている私。展開が面白いので最後まで飽きないのと、随所に「うまいなー」と惚れ惚れする短いせりふが、何気なく、しかし、かなり有効的にちりばめてあるのがたまらない。清張を読む会、というのがあったら即入会したい。その昔、フランスのカトリーヌ・アルレーに耽溺して、その時もファンクラブを作りたいと真剣に思った。

 ミヨコさんと「突然の不幸の話」をしていたら、友達夫婦の夫が、去年のクリスマス前夜に梯子から落ちて頭を打って意識不明、奥さんは家の中にいて気付かなかったのを通りかかりの人が見つけて知らせてくれた。大至急ロンドンの大病院へヘリ輸送されたが、結局意識戻らず、今も眠ったまま、植物人間みたいになっている。この夫婦はまだ60そこそこ、退職して平和な生活だったそう。昨日までしゃんとしていた人が一瞬の惨事で人生が切断される。家族の人生も狂う。世界中どこにでもあって、我が家だけではないのだ。

 私ごとですが、実はのんきにロンドン便りなど書いている場合ではないのです。「あけぼの会30年史」を作り始めなければ。それが頭にあって、便りを書きながらも罪悪感で息がとまりそう。でも何から書き始めればいいのか、30年は長かったので、当惑している。