ありがたいことに、この国ではヘルパーは完全無料、日本も同じだと思うが、日にちだけでなく時間で融通してくれたりもする。たとえば、家へは毎日朝10時から夕方6時まで女性が一人来て、あと一人の女性が朝10時から1時間だけ病人をベッドから起こす手助けのためだけに来てくれる。体を拭いて着替えさせて車椅子に座らせるのに優に1時間はかかる。これを二人のヘルパーがしてくれる。そして週3回だけだが夕方6時から一人来て、夕食を食べさせ、9時から就寝の儀式を終えるまでいてくれる。子供の一人が手伝う。
今回みたいに娘が留守の間は特別に毎夜9時から10時までの1時間、一人来てベッドインだけ手伝ってくれる。妻の私はただいるだけで役立たず。こんなふうに、必要なら1時間だけでも誰かを送り込んでくれるところがすごい。日本では家族が同居していると手があると見て、ヘルパーを加減されてしまうと聞いたが本当だろうか。ヘルパーは病人のためだけとか、病人の使う部屋しか掃除しないとか、小刻みなことにこだわって融通を利かせない。お役所のケチな決まり。ヘルパーは介護に疲れている家族もヘルプしてほしい。
この家はヘルパーに恵まれていると言わねばなるまい。ただ、今までに3人、替えてもらっている。最初の黒人男性は暗い雰囲気で、息子がどうしても嫌で辞めてもらった。次は妊娠したピースという女性、この人は娘が徐々に耐えられなくなったらしい。そして最後の人はほんの2,3回の仕事振りでダメを出したという。やはり相性が悪いと努力しても長続きしない。以前いたナース・ジェニースは定職を探して去ってしまったが、家族の一員みたいに私たちが慕っていた。8歳の娘も一緒に来て、孫と遊んでくれたこともあった。
ロンキーという人は辞めて1年近くなるが、今でもメールで交信していて、夕べなんか電話も来て、病人はどうかと聞いてくれる。唯一イギリス人のヘレンは夜の出勤、この人は来て1年近くなるが、3週間の休暇を終えて、夕べは初出勤。顔を見るなり、あんた何か食べる?マッシュルームマカロニがあるのよ、と食べさせた。夕方6時勤務だと夕食を食べる時間もなく来てくれている事が多い、と私が心配して。聞けば週に8軒の家を廻っているそうだ。人の家の中に入り込んでの仕事なので、どうしても家族との軋轢が起こる。
ナイジェリア人のブーミという女の子は37歳、この仕事でバイトしながら大学に通っている。年が娘と息子の丁度中間、それで私の二番目の娘と呼んでかわいがっている。あんた、お腹空いていない、といつもうるさく聞くので、最近は先に今日はナット・ハングリー、と釘を刺す。一人暮らしをしていて時間も不規則なので、ついかわいそうになってしまう。他に夜9時から1時間だけの人はなんとロシア人、黒髪で、一見日本人に見えるのにカザフスタンの人で、ヘルシンキで大学院に行っていて夏休みだけこの国に来ている。
こうして世界各国の人々に助けてもらっていると思うととても不思議な気がする。縁もゆかりもない人たちだったのに一生の友にもなっている。娘が、今までお世話になったヘルパーをみんな招待してパーティをしようと言い出した。それはいい、善は急げ。葬式に招いてもしょうがないので、今の内にアレンジしなければ。何より病人が喜ぶ顔が見える。