今週、もう一回、ジョンさんのスピーチからです。
ノルウエーの医学界で有名なある教授が「よい医者、よいナースとは」の質問に答えて、「グリップを持っている人」と言ったそうです。そして、では「グリップとは」具体的に何のことか。以下の八つの項目を挙げました。

1)専門家としての適性とやる気
2)自己が安定して自信があること
3)人間としての識見があること
4)直感(実地で得た内なる知識――体が覚えている知識という意味か)
5)患者との対話技術、対話する情熱、意志を持っている
6)時間をかける
7)親切、寛容、カリスマ、ユーモア精神を備え持つこと
8)継続(患者が次々別の医者にかからなくて済むように)

以上の8項目ですが、直訳なのでピンとこないものがあるかもしれません。また、ジョンさんはノルウェー人なので、彼が英語に訳す時に既に少しずれていることも考えられます。しかし、大体は私たち日本人でも医者に望む条件と大差なく、その通りとうなずくものばかりと思います。

「やる気」と訳したのは実は「engagement」という単語です。これに相当する正しい日本語が探せなくてずいぶん悩んでいます。医者になると決めて邁進する姿勢か自己投入、という意味合いだと思うのですが、一つの言葉で表せない。

また、自己が安定していること、これはとても大事ですね。自己不安定な人が医者になったら大変です。頭脳ではなく、家庭環境などが影響すると考えられるので、始末が悪い。試験の点数には表れない人間の中身のことだからです。

ただ、最近は患者の権利意識の向上、いい意味とよくない意味での、のせいでよい医者が育たないのではないかと私は心配しています。よい医者はよい素質を持っていることに越したことはありませんが、素質を引き出すのは案外、患者なのかもと思うからです。よい関係はいつも相互作用で、片方だけではないのです。