「妻の病気(illness)は私の病気、妻の恐怖(fear)は私の恐怖、妻の苦痛(pain)は私の苦痛」ノルウェイ人のジョン・マグナスさんが静かに叫びました。まるで、乳がん患者の妻を持つ世界中の夫を代弁しているようでした。

私たちは周囲の人たち、特に夫や両親の気持ちにまで思いを馳せる余裕がありません。彼のスピーチで私もしっかり目が醒めて、この叫びこそ、みなに伝えなければならない。こんな名セリフを聞けただけでもリスボン大会にやって来た価値があった、と興奮を覚えました。

「私の妻と私は、言ってみれば、同じボートに乗ったもの同士」とも言い、
「夫は、ときに患者自身よりも、もっとひどい気分になり、もっと絶望的になり、もっとどうしてよいかわからなくなるものだ。確かに患者は怖くて怖くて死んでしまうほどの恐怖心に襲われているだろう。しかし、患者は少なくても(医師やナースに)面倒を見てもらっている。だが、夫はそうではないのだ」とも言いました。

どうですか、みなさん。もしもあなたが自分の身ばかり案じて、泣いたり(わめいたり?)したとしたら、少しばかり反省して、夫、子供たち、両親、兄弟姉妹のことを思ってみませんか。そして、感謝の気持ちをことばで伝えるのです。

今、感謝の気持ちを述べることができる私たちは幸せです。述べたくても生きられなかった人もいる。「あの時は自分のことしか考えられなかったけど、私のことを本当に心配してくれてたのよね、ありがとう」とか言えますか。少し恥ずかしいですが、お礼の気持ちを言葉で伝えるには勇気が要るのです。がんの体験を乗り越えてきた私たちにはこのくらいの勇気はありますよね。ありますとも。

マグナスさんは、最愛の奥さんを乳がんで失うまでの夫の心理状態を詳しく分析して、みなに伝えてくれました。ここに国境はありません。

彼はまたこのように言っています。
「夫に対するケアも大事なはずだ。なぜなら、夫は医師にとって、患者の病状を改善するのに欠くことができない道具なのだ」

「道具」というのは直訳ですが、「夫のサポート、理解、励ましをなくしては妻の病気はよくならないのだ」というくらい、医師に対して夫の存在の重要性を主張しているのです。