なかなか信じてもらえないのですが、私は毎晩9時には就寝します。といってもすぐに寝入るわけではなく、夕刊をベッドの中で読んでいると、眠気が襲ってくる。スタンドを消して、老眼鏡を外して、夕刊を床に落とす、とたちまちに眠る。とにかく長年の習慣で、その時間になると、眠くて目を開けていられないのです。また、外出していて人中にいても、大きなあくびが腹の奥から出てきて、ふと時計を見ると9時ちょっとすぎ。私の睡眠時計は5分と狂わない。その代わり、朝は早くて4時には目を開けています。
トータルで7、8時間は寝ていることになって十分なる睡眠。しかも最初にドーッと深い谷間に引きずり込まれるような心地よい寝つき、と来ています。ですから、夜眠られない、という人の悩みが私には理解できなくて、申し訳ない。
私は小さい時は農家で育ったのですが、夕飯どき、ご飯茶碗を持ったまま、こっくりこっくり眠ったという伝説の持ち主。ですから、早寝は子供の時からだったようです。それなのに若いときは徹夜で勉強したり、夜更かしして遊んだりしていたのを、入院生活で消灯9時起床6時という軍隊式睡眠時間を強要されて、それまで忘れていた早寝早起きの体内時計が動き始めた。そして、そのリズムが心地よい。
このリズムが守られれば、一日調子よく機嫌よく働くことができて、人に迷惑をかけないのですが、少しずれたり、寝不足だったりすると、てきめん。翌日は頭がボーっとして思考力が落ちて怒りっぽくなって、電話に向かって怒ったり、一緒に仕事をしている人に当たったりして、すっかり人格が変わってしまう。
「9時寝4時起き」は私が乳がんの手術のために入院した26年前から続いているのですから、思えば、私は人生の大半をずっと寝てすごしたような気がしないでもない。特に、寝るのが惜しいから起きている、という人に行き会ったりすると、自分が寝ほうけバカにみえてきて、にわかに自信がなくなります。
でも、がん体験のあと、何を最初に変えたかというと、人のことは気にせずに、自分に一番いい生活をすることでした。その手始めが睡眠パターン。お客がいても子供が起きていても、私はいつも寝る時間が来ると失礼いたすことに決めていました。身勝手のように見えますが、自分の体と明日の仕事が何より大切と思えば、許される贅沢だと今でもこれを通しています。