患者氏名: 小川絹子(仮名)(39歳)   病名: 乳がんの骨、肺、脳転移

ほぼ全身にがんが転移しています。抗がん剤を受けていただいても、あなたのがんが完治することは、残念ながらありません。今後の治療は、ただ病気の進行を遅らせる目的で行います。肺転移が進行した場合、呼吸困難が出現するので、酸素吸入が必要になります。
がんが全身に転移、特に脳転移のある人は、抗がん剤の副作用が強く出る場合が稀にあり、そうすると、重症の肺炎などで生命に関わることもあります。
今後の抗がん剤治療は、当院では、外来治療でできなければ行いません。それは体力が低下している人に抗がん剤を投与しても効かないことと、重傷の合併症が出る危険が高いからです。
脳と肺、骨治療のどれを優先させるかはすぐに判断できません。肺のCT検査の結果次第で決めます。

これはある患者に、ある県立がんセンター病院の医師が手渡した「説明記録」です。患者が要求したものか、それとも、医師の方から、患者に頼まれてはいないのに自発的に書いて渡したものかはわかっていません。しかし、「説明記録」という呼び名から推測すると「あなたにはこのように確かに説明しましたよ」という証拠のためとも思われます。後日、(臨終の時に)「重症の肺炎などで生命に関わる」ことは断ってありました、とか言うために。

ああしかし、このような紙切れを一枚手渡されたら、患者は、しかもまだ30代の患者は一体どうしたらよいのでしょう。「あなたの人生はもう終わったのだから、変に悪あがきは止したほうが身のため」とでも言わんばかりの無慈悲な宣告。

私はこんな医師を許さない。そしてこんな縁切り状が堂々と出回る風潮を心のそこから嘆きます。いつから、どうして、日本の末期医療はこのように乱暴に心ないものになったのか、私は抗議できるものなら抗議したい。

でもしかし、私は知っている。こんな風潮に招いた責任の一端は患者にもあることを。わけもわからずに、いたずらに、患者の権利などと、ほざくタイプの患者がいるから、こんなことになってしまった。二言目には「アメリカでは」などと言うが、アメリカでもこんな「絶望の手紙」を患者に渡す医師はいない。

ここまで暴走した「説明と同意」現象を今一度見直さないと、今後この小川さんのように生きたまま抹殺され、路頭に迷う患者が続出することになるのです。