最近は日本の新聞は諦めて、ニュースはヤフーで見る。「王監督、胃の腫瘍(しゅよう)の治療のため入院」これって早い話「胃がん」なんでしょ。なぜはっきりそう書かないの。今ころになって「がん病名告知」を控えることにしたのですか。後戻りでしょ。それとも、社会的に影響力のある人は特別扱いすることに決めたの。すると、私たちだけが‘がん患者’で彼は‘腫瘍患者’になる。胃がんは早期なら完治するのだから、考えようによっては長島さんの脳梗塞より社会復帰が容易でしょう。王さんは男の中の男だから、意気地なしに見られるのは何より忌むでしょうに。日本の報道機関て腰抜けね。

 あの天皇陛下だって前立腺がんと公表されたのではなかった? 私が勝手にそう思い込んでいたのか定かではないけど。「がん」の二文字を密封してしまうなら、みなに平等にそうしてほしい。「本人にはがんと直接言わないでください」という家族の懇願も無視して、患者にわざわざ告知してはばからない思慮浅薄な医師を野放しにしておいて、こんなときは過保護にする。日本はこうだからいやになってしまう。

 大体、女お世継ぎ騒動だって、男子生誕の可能性が出てきた途端、あの軽口小泉さん、いっぺんに二枚舌。それを聞いた野党も国民も何事もなかったかのように静まっている。女子か男子か、知りたければもうとっくに知ることが出来るはずなのに、恐ろしくて誰も追及しない。この国に来て、イギリス人に「あなたはどう思うか」と聞かれて困っている私の身にもなってほしい。「日本は歴史上、男子しかいなかったので、女子天皇は抵抗がある」というべくか、「前例ばかり奉っていたのでは何も変わらない。だから、今こそ勇断のとき、女子でも可とすべき」というべきか。「そんなこと私に聞かれても」と答えたいわ。

 7月7日、ロンドンはテロ襲撃事件から1年を迎えた。あの日、悲劇の地下鉄とバスに乗り合わせた乗客52人の命が失われた惨事の1周年記念日、関係地下鉄駅ごとに被害に遭った生存者、遺族、親戚、友人など大勢が花束を供え、ロンドン市長、ブレア首相も参列して厳かに式典が行われた。亡くなった人、一人一人の名前が読み上げられ、遺族代表が自作の詩を朗読して、テレビには全員の顔写真が音を消した画面に流れていく。そして、最後に「ロンドンはあなたを忘れない」とか「London Loves You」という文字が流れる。日本語で「東京はあなたを愛している」なんて言ってもちょっと気持ち悪いが、英語はその点、詩的で、さまになるからいいなと思う。

 今日は日曜日、のどかな昼下がりに、病人はテラスで車椅子を倒して時々差し込む陽の光を浴びている。「リビエラやってるの」と聞く私に、力なく笑い返すが結構うれしそう。日焼け止めクリームをヒゲが少し伸びた顔とパジャマパンツの裾を少し上げて、膝から下の足に塗る。こんな病気にでもならなかったら、夫の顔や足にクリームを塗るなんてことはなかっただろう。今一番行きたいところはどこ、と聞かれた夫は右腿に指で「PARIS」と書く。しばらく前まではスコットランドだったのに。パリね、娘がインターネットで車椅子対応のホテルを探して予約を入れた。水曜日に汽車で行くという。えっ、私も行くの?

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