私と故国をつなぐ唯一の命綱、ノートパソコンが受信はするのだが、送信が出来なくなった。送信トレイに溜まる一方、なんでなの?いつも指示を仰ぐ札幌の久保さんに尋ねたくても、送信が出来ないのだからそれがかなわない。あちこちいじりまくって、余計におかしくしてしまった。娘が自分のパソコンに貼り付けて送ってくれるというが、その意味もわからないので落ち込んでいた。でも、前の回、そっと覗いてみたら、富樫さんがちゃんとアップしてくれてあったので、これも同じ方法で送ってもらうことにする。

 今や人類はコンピューターという魔物の奴隷、故障すれば手足をもぎ取られたようなもの。読んで字のごとく「お手上げ」。世界中の飛行機や電車の発着を狂わせる事が出来て、狂えば、人々は瞬時に足止めを食う。でもこれがあるので、地球上どこまで行っても誰とでも交信出来る安心感は付いて回る。なので、日本のみなさん、どなたでも、どうしたら送信能力回復できるのか、機械音痴の私にわかるよう教えてくれ、恩に着ます。

 新居はだだっ広いだけが取り得で、実際非常に住みにくい。キチンが狭くて人一人しか入れない、トイレが一つしかない、収納場所が皆無に等しい、皿洗い機がない、ドライヤーがない、無い無い尽くし。 でも私は天に誓ったように 「こんなとこ住めたもんじゃない」 などと言わないように唇を固く結んでいる。 ただ自ずと顔に表れて、不満顔になるのがわかる。 これで家賃がただというなら我慢できるけど、それ相当に払っているんだから馬鹿らしいのよ、ともぐもぐ言って、また引っ越せばいいのよ、と言い出しそうになっている。

 肝心の病人は、そうですね、全く変わり映えしません。日がな一日何もしないで車椅子に座ったまま、それでもジョニーキャッシュやアダモ、モンタン、エディットピアフ、ディーンマーティン、ロイオービソンなどのショーのDVDは楽しんで見る。ドラマやニュースは全然興味を示さない。食べるものも以前と同じくミキサーで砕いているが、半分は飲み込めないで垂らしてしまう。それでも口から食べられるので、胃ロウよりはいいのではないか。娘と息子はもういい加減飽きているはずのこの作業を連日当然のごとく繰り返している。

 会話は全面的に文字盤を使ってするようになった。上下5列、横に六つのアルファベットが並んでいて、上段から一文字ずつ選ばせていく。気が遠くなるこの方法を娘がもっとも辛抱強くやっている。ヘルパーたちもやっている。私は面倒くさくてパス。こっちに来て3日の間私がした貢献といえばタオル20枚の漂白、毎日のお洗濯、ハンバーグを作ったことくらいで、あとは驚くなかれ、3日間寝巻きのまま一歩も外へ出ず、寝てばかりいた。

 時差戦争は始まったばかり、夕べはうとうとしながらだったが息子と1時まで起きていたのに、早や2時半には目が覚めて、これを書き始めて今4時10分。導眠剤は導眠だけで、長続きはしない。でも昨日4日目、息子に連れられて地下鉄でオックスフォード通りのユニクロまで行ってきた。そう、日本のあのユニクロ、すごい人気で一等地にでんと店を構えて、更に数メートル先に新店舗を開店準備中の勢い、無印の店も同じ通りにあった。日本人の経営能力というか、商売センスというか、抜群なんでしょう。クリスマスデコレーションはまだなのに、町は既にその熱気で、行き交う人間の多さにめまいしてしまった。