我が家の病人の朝食は以前も書いたが、オートミールみたいな麦のシリアルに果物、りんごは必ず一個(イギリスのりんごは日本のりんごの半分のサイズ)バナナ、プラム、キューイ、ぶどう、とか何でもあるものとヨーグルトとミルクを加えて攪拌したもの。毎朝こればかり。朝は比較的よだれ・つばが少なく、飲み込みもよいので、食べさせやすい。水は胃ロウから食事前に注入。食事は何でも必ず片栗粉みたいな固める粉を混ぜて、ごってりさせてから口に入れる。少しでも水気が多すぎると、すぐに咳き込んでしまうから。

 ランチとディナーは基本的には玄米ご飯にその日のおかずをミキサーで攪拌、混ぜるには水分が要るので、肉と野菜をふんだんに入れた具沢山スープを作って置くと重宝。固形のおかずだったら、インスタントスープや水を足したりして、そこは適当。以前はメインにサラダがセットだったが、最近は食欲が落ちて、どっちか一椀だけでいいという時もある。飲み込む力も落ちていて半分は出すので、口から食べさせるのは面倒だが、聞けば胃ロウからの食事も大変だというし、口からなら舌で味わえるから食べた気がするのでは。

 問題はトイレ。便秘はALSの最も顕著な症状の一つだという。下剤は殆ど毎日使っているが、それでも出にくい。体を囲むようなベルトを巻いて、ホイストで吊り上げて、コモートに座らせる前にパンツを下げる。終われば、お尻を拭いて、また吊り上げて、パンツをあげて、車椅子に戻す。この一連の作用が疲れる。息子みたいに体力があれば平気だが、私はただスイッチ持ってボタンを押しているだけでも疲れてしまう。しかも、したいと言ったのに、しないときも多く、成果なき徒労。がっかりして、更に力が抜けてしまう。

 しかし、これも手がないとベッドに終日寝かせたまま、オムツで始末している人もいるのではなかろうか。本人の意識は正常なので、かなりの屈辱だと思うのだが、それも仕方がない時は仕方がない。昨日なんか、30分間に2回もトイレを訴えて、ヘルパーのエリザベスと二人でようやく座らせるまでしても結局ほんの一切れずつ、出た内に入らない。彼女が6時に帰って、代わりのヘレンが来たら再挑戦、3度目の正直をトライするが、何も出ない。そしてまた30分後に訴えるが、頼んで9時にベッドに入れる時まで待ってもらった。

 こんな毎日。夫の友達に相談すれば、口を揃えて、もうホスピスへ入れるべきだと言うので、息子に進言してみたが、彼は頑として反対、私に、なぜ関係ない人に相談したりするのかと本気で怒ってしまった。正義感だけでは片付けられない事が世の中には沢山あるのに、彼はただ病人がかわいそう、の一点だけで考えを曲げない。息子を説得するだけの影響力が私にないのだから情けないが、私はまた日本に逃げ帰るので後は知らん。

 娘がバンコックで以前ここで手伝ってくれていたピペットに会ったそう。するとなんと彼女はまたイギリスへ6ヶ月来てもいいと喜んで言うのだそうだ。えっ、うそでしょ。自分の子供も2歳になるか、いるのに。でもピペットは天使様、来てくれればみなの肩の荷が軽くなる。彼女はリラの面倒、病人の世話、掃除洗濯買い物料理、何でも屋さんなのだ。私の飛行機代、全部彼女のお給金に回して、私はこの辺でお役ごめんにしてもらおう。

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