18日、娘が日本に無事着いた。ヒースローを発つとき予想外の展開あり。オーバーブッキングだったらしく、娘と孫に明日に変更してくれないか、したら、一人に付き200ポンド進呈するとANAが言っている、と娘からの電話。400ポンド?10万円?迷うところ。だが私の結論はタイムイズマネー、思いはもう日本なんだから足止め食わずに行くべきよ。(しかし大きなあぶく銭だなあ)娘も納得して電話を切った。ヘルパーのジェニースにそれを伝えると、明日なんてすぐなのにビッグマネーを取るべき。ためらいなく言ってのける。

 そこでポリシーの弱い私。「まだ間に合う?ジェニースがね、お金だってよ」と電話で叫ぶ。これを実践哲学っていうのかしら。芯が通っていて揺るがない。わかった、そうするわ、と娘もすぐに方針変え。ANAの最終決定は6時、1時間後。みな、もうお金をもらった気分でわくわくしている。戻れば、気の早い私がさっき洗ってしまったパジャマを一晩だけ着てしまうのかな。ジリーン、400ポンドの電話が鳴る。「結局行くことになった、けど、ビジネスクラスをくれるんだって」「ウワーオー、そっちがもっといいんじゃない」

 かくしてエアポートドラマは終わり、思いがけずの厚待遇で日本へ飛んだ。これで親子3代、神の思し召しを賜ったことになる。孫は帰りの飛行機でもあのご馳走を期待しているだろう。すかさず、この世には階級差というものがある、大きくなったら、とにかく大金持ちとケッコンするのよ、と実践哲学を教え込んでやればいいのだ。ただ、現実はそれどころではなく、孫は私の家に入ると間もなく、猫アレルギー反応を示し始めているらしい。触ってはダメといっても無理な話、キティは人に擦り寄ってくるから、ついなでてしまう。

 娘がいなくなって一日目、病人が朝からぐずっている。
お尻の屈辱、じゃなくて、あれはじょく創、が痛いのではないか。
ジェニースが電話でナースと相談、すぐに飛んできてくれて点検、しかし、問題はそれではなかったらしい。
一日中、よだれが大量に流れ出て、咳き込んで苦しいので、吠えるように唸っていて、そばで見ていても何もできない私はキッチンに隠れていた。
本当の病人は苦手なのよ、誰か胸ときめく素敵な男性とお茶でも飲みに行きたい。
素朴な願望。
テレビでキスシーンなんか見ると、いちゃつくんじゃねー。

 先日、ロイヤル・アカデミー美術館へ行ってきた。モスクワとペテルブルグから旅してきたフランスとロシアの秀作絵画展、題してFrom Russia。私はどこの美術館でもすぐにめまいがして足が重くなるので、1時間が限界、それで、音声ガイダンスのある絵を選んで見ておしまい。音声貸し出しのおニイチャンに「ジャパニーズはないの?」と聞いたら「英語とロシア語だけ」「じゃあロシア語にするわ」こういう会話ができれば、私、健在。

 ああしかし、現状が改善されない。病人をホスピスに預けると、いまのヘルパーは来ないので、終日一人放っておかれることになる。私がいるときだけ付き添ったとしても病室の一日は長い。お金を払って誰かを雇えばいいのかも知れない。寒がり屋の私、今回もホカロンしこたま持って来た。数えると残13個、毎日一枚ずつ貼っていくと29日で使い切る。帰国は30日、寒くても寒くなくても一枚ずつ念仏唱えながら貼っていくことにしよう。

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