今、朝の1時半、眠られない。昨日、朝日ホールで音無美紀子さんと対談し、その後パネルディスカッションに入ってもかなり興奮して喋ったからか。興奮したのは帰国以来のみ続けた睡眠薬のせいで、頭はボーとしているのに喋り始めるとコントロールが効かない。前夜、眠らなければと必死になると余計眠られず、就寝前に半粒のんだ薬を夜中にあと半粒のみ足してようやく朝の7時まで寝たのだが、今度は薬が頭に残ってしまった。それで今度はバファリンをのんで思考を冴えさせようと躍起になったが、だめ。
こんな自堕落生活を続けていたら先行き碌なことはない。それで、ヤクは今夜でやめることに決めた。眠れなかったら起きていればいい、別に不眠症ではないのだから。しかし、明日はまた仕事なのに寝ないと一日中イライラ、すぐに怒ってしまう姿が目に見えている。数独ももう考える力がない、かわいそうな私。私は規則正しい生活しかできないのよ。リズムよリズム、体内時計よと言いかけたが、今眠られないのは体内時計のせいなんだわ。
あの夜、朝帰りで疲れた息子がソファで眠りこんだので、娘と私とで病人をベッドに寝かそうとしていたら、気配で、息子も起きて来て私をのけていつものように仕切るつもりが、半眠りなのでできない、そこへ娘の言った何か一言が聞けないと言って大声をあげた。すると娘も泣きながら、こうなることがわかっていた、いつも寝てないときは切れるんだから、寝ていてくれたほうがありがたいのに何故起きてくるのよ、と滅多にない勢いでわめいて反撃している。もう夜中11時過ぎ、辺りは静寂、二人の怒声が倍に響く。
夫が「ウオ―ッ」と猛獣の咆哮のごとき声をあげた。やめてくれ、どうかやめてくれ、自分のためにいがみ合うのだけはやめてくれ、と身を振り絞って叫んでいる。言葉にはならないが、顔を真っ赤にして、涙一筋流して、咆哮を繰り返している。なんという地獄絵巻か、私は眠くて疲れて、誰をどうなだめていいのか判断力喪失、ただ夫の赤い額に手を当てていた。タオルを絞ってきて冷やしたほうがいいのか、熱があるように熱い額。
子供たちももともと憎み合っている仲ではないので、一度ずつ大声で腹の中を出し切れば落ちついて「ダディ、もう大丈夫だから」と一転、病人を慰めている。「二人で一服してくれば」という母親の気の効いた提案で共にベランダへ出てマイルドセブンライトに火をつけた様子。戻ってきた時は私に、寝てもいいよ、とやさしかった。今夜はみな疲れているんだから、運動は休んでみんなで寝ようよ、と病人にも聞こえるように言ったのだが、子供たちは今度は結束して、でも毎晩しないとだめになるからね、と微笑んでいる。
1時間くらい寝て、薄明かりが点いているので起きてみると、なんと息子はまだ夫の部屋でその日の就寝前エキササイズを黙々と続行中、娘はリビングでパソコンに向かってなにやらやっている。疲労が限界に達しているのに、そして私は明日日本に発って手伝いが一人減るというのに、さっさと寝てくれ。目の前で殴り合わんばかりの大げんかをする子供たちを見て、夫は心底死にたいと願ったのではなかろうか。見せたくなかった絵巻だったが、二人が大声で絶叫したのは健康的だった、よかった、と私はむしろ歓迎している。