暮れに初公開した我が家の病人は写真では元気そうに見えるが、手がかかることは以前に増してきている。なんといってもトイレに連れて行くとき、ベッドから起こしたり寝かしたりするとき、もはや自分の足では1分も立っていられないので、ホイストで縛り上げる。大きなお尻の下から装具を通して着けるのが一仕事、トイレは待ったなしなので急がないと間に合わない。一旦コモート(丸く穴が開いていて、トイレの穴に重なるようになっている椅子)に座らせれば、間に合わなくてもプラスティックの受け皿が代わりをする。

 それを見て、洗い流したり、かがみこんでお尻を拭いて後始末することを子供たちは早や1年近くやっている。トイレの中で一緒に座ってじっと待っていることも多い。本来なら妻の役目なのだろうけど、子供たちが私にはさせないので好意に甘えて任せきり。小水は起きている間はまだボトルなので、的に当てがってさせてから、中身を捨ててボトルを洗うのは日に何回もしている。こんな汚い、本能的に避けたくなるような作業を明けても暮れてもしていたら、人間、ストレスで免疫力が落ちて何かの病気になるのではなかろうか。

 気晴らしにみよこさんの家にランチに出かけた。息子の友達のお母さんで郊外に住んでいて犬を飼っている、と以前紹介したあの人の家。チャリングクロス駅から急行で30分、市街地を抜けて彼女の駅に近くなると無限に広がるイングランドの田園風景が楽しめる。大きな一軒家で、リビングからの眺望が素晴らしい。朝から小雨が降りしきって薄暗くてかなり寒かったのだが、出かけた。この国で、今日はお天気が悪いからやめましょう、なんて言っていたらいつになるかわからない。大体、雨天順延なんて言葉があるのかしら。

 帰りに電車(英国鉄道)から地下鉄へ乗り換えるのに切符を自動改札に通したら通らない。駅員のおばさんに見せると、この切符は電車のだから上のプラットフォームに行きなさい、という。今私はそこから降りてきて、目の前に地下鉄の乗り場行きの通路が見えているというのに。通してくれ。不正は(今日はまだ)やってない。そこで一瞬のひらめきあり。これは出口ではなく地下鉄の入り口だ、地下鉄パスを通せば通れる。その通り。

 駅員は気を効かせて、これを教えてくれればいいのにね、見ても知らん顔している。飛躍して、つらつら、日本人と英国人のメンタリティーの相違を思う。イギリスの駅員は切符を見て、その切符の有効範囲を考えてそれ以上の想像はしない。しかし、これが日本なら、地下鉄の方へ向かっているのだから、こんな客にはすぐに察して(電車で来たのだろうけど)ここでは別に地下鉄の切符が必要、それを持っているか、確かめて、乗り換えはそっちを通してください、というだろう。日本人は一歩も二歩も先を読んでいるのだわ。

 どちらがいいというのではないが、せっかち日本人は競馬の馬みたいに前へ前へ進むことしか考えられないので、切符通しても通れなかったり後戻りせよなんて言われると、じれったくてバカじゃなかろうか、と思う。そう、もうじっとしているのは我慢できなくなった私、当初の帰国予定を早めて、今月21日(日)発、翌22日着。自分の仕事がしたい。貧乏性ね。17日は神戸の大地震で亡くなった人々を偲ぶ日、18日は私の67回目の誕生日。