新年早々、日本から身も凍るニュースが伝わってきている。歯科医の息子(21)の予備校生が一つ年下の妹を殺害、遺体を切断してゴミ袋に入れたままで出かけたという。さながらホラームービー、何ともおぞましい。やはり医師の息子が自宅に放火して、母親と二人の妹が焼死した悲劇の記憶も新しい。私の留守中、日本は狂ったか。殺された妹も気の毒だが、追い詰められて大それた犯行に及んだこのボーイの心中を思いやれば、それも同情したくなる。そして、この先これをずっと引きずって生きる親兄弟もたまらないだろう。

 子供は産まれたときは誰もがおめでとうと祝ってくれるので、みなすくすくと育ってくれるものと思っているが、20年後にどうなるかまでは想像できない。こんな凶暴に走る子を見ると、自分の子は学校の成績などどうでもいい、人を殺したりしなければ、と祈ってしまう親が多いのではなかろうか。医者に限らず、親は自分の職業を子に継がせるのが夢、特に、父親が息子に継がせたがる。でも子は親の思い通りにならないほうが多いことを知るべきなのだ。馬を水場に連れて行くことは出来るが、水を飲ませることは出来ない。

 家の息子は何も仕込まなかったので取り得は一つ、あくせくしない。これを取り得という親ばかな私。他にないから仕方がない。彼が8から17までサンフランシスコへ息抜きに行くことになったので、私の帰国を順延して21日にした。18日の誕生日なんかどうでもよくて、帰心矢の如しなのだが、これが家族全員揃ってのマイバースデーになりそうなので、祝ってもらうことにした。私は人に何でもしてあげるのは慣れているが、してもらうことは慣れてないので却って苦痛。でも、させてあげることも家族孝行というものだろう。

 娘は父親、一人娘、連れ合い、みなの面倒を見て疲れ果てたのだろう、声がかすれて出なくなってしまった。風邪ではないので疲労から来ているに違いない。父親の横にべったり座って、世界中から届いたクリスマスカードにメールで一斉に返礼する手伝いを二晩掛かりでし終えた。夫は毎年年賀ハガキを特注して優に100枚は出していたのだが、今年は全くその気がない。室内で自動シャッターで撮ったファミリーフォトにメッセージを添えたeカード。気乗りしない病人を「出すの出さないの」と気長に説得、結局メールアドレスのある人全員に発送した。娘の粘り勝ち。あれもこれも細い肩に背負って、かわいそう。

 見ていると、夫はこの娘を誰よりも頼りにしているのがわかる。辛抱強いので滅多に怒ったりしないから安心なのだ。息子は睡眠不足(夜出かけて)の時は顔つきも険しくなり必ず短気を起こすので、スプーンで物を食べさせるだけでも夫は恐怖を感じて嫌がる。それを見て、また息子が怒って、もう知らんと投げ出してしまう、これがいつものパターン。子供たちも限界なのだ。息子のアメリカ行きはみなに取っても息抜きになるだろう。

 突如、オレゴンの千恵さんから訃報が飛び込んできた。ご主人(50)が5日朝、息絶えたという。元日に結婚22周年を祝ったばかりだったというのに。2006年初頭からきっかり1年の闘病だった。子供さんがいない夫婦、いつも二人一緒だったので、今、彼女は全身がっくり力落として、寂しさと悲しみの中にいる、と書いてきた。なんと慰めればよいのか。

バナー広告

とどくすり

共同文化社

コム・クエスト