「3年前に左側を手術したのですが、今度は右側にもシコリがあるといわれて、それもかなり大きくなっているのです。それで、別の病院で診てもらいたいので、どこか紹介してもらえないでしょうか」

「今までの主治医の先生はどうしてだめなの。反対側も診てもらっていたはずなのにシコリが大きくなるまで探せなかったから、という理由?」

「ハイ、それもありますが、左は全摘だったので、もうあの時のような思いをしたくないんです。だから、できたら切らなくてもいいという先生のところへ行きたい」

「ああ、そういうことね。一つ切ったから、もうこれ以上は切られたくないという。確かにその気持ちはわかりますが、もしがんなら何らかの手を打たなければ。全摘した手術跡を嘆いているようだけど、この3年間、再発もなく来ているんだし、あなたの先生は一応正しい治療をしてきている、と考えてもいいのではないかしら」

「私の独断ですがね、あなたは自分の身に起こりつつある事実を認めたくないんでしょ。もうがんはいやなのよね。一度でたくさん、といいたいんでしょ。口惜しいし情けないし腹が立つ。でも、考えてもみてよ。最初のがんで取り留めた命を二度目のがんにくれてやるの。それはないでしょ。両側手術は本当に気の毒だけど、あなただけじゃない。他にも大勢いる。仕方ないじゃない。起きてしまったんだから。立ち向かっていくのよ。あなたならできる。きっとできる」

「ハイ」

「泣いている場合じゃないでしょ。あなた何歳?47?立派な大人の年じゃない。いい?乳房は二つあっても(その二つが二つとも無くなるかも知れないから泣いているのに、なんという喩え)命は一つ、おわかり?大事なのは一つしかない命なのよ。その命のために今、闘わなければ。気持ちを強く持って、勇気を出して」

「でも、あなたがね、今の主治医に少し不信感を抱くのもわかるので、一人ドクターを紹介しましょう。といっても紹介状は出せないんですが。その先生がどう診断するか、それを聞いてから決めても遅くない。大事なことはここで逃げないこと。逃げてどうするんですか。誰もあなたの代わりに病院へ行けないのよ」

「とにかく、がんでも切らなくてもいいなんていう病院があったら、そのほうが不気味だと私は思いますけどね」

(実は最近、手術不要説が浮上していて、私のお説教も説得力に欠けてきました)

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