2022年は術後補助療法におけるブレークスルーイヤーになります。
原発乳がんに対するアジュバント療法で、重要な発表が相次いでありました。大規模な比較試験(第3相)の成果の発表がありましたし、様々な比較試験を一つに集め、大きな症例数でメタ解析(Meta-analysi)を行い、俯瞰的にメリット・デメリットを評価するEBCTCG(Early Breast Cancer Trialists Collaborative Group )からの重要な報告もありました。
これらの成果について述べます。
注:メタ解析(Meta-analysi)―複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のこと
EBCTCG――早期乳がんのアジュバント療法を主な対象に長期成績、有用性、毒性に対する評価を行う世界的グループ。
1.ホルモン受容体陽性、HER2陰性の乳がんに対する術後アジュバント療法
1) 高い再発リスクの乳がんに対するCDK4/6阻害薬アベマシクリブ(ベージニオⓇ)4個以上のリンパ節転移を有する症例、1-3個のリンパ節転移を有し腫瘍径5㎝以上、あるいは組織グレード3のような再発高リスク症例に対して、術後のホルモン療法にアベマシクリブを追加することで、無浸潤疾患生存率が有意に改善することがわかりました。
アベマシクリブは150㎎を一日2回、2年間の投与です。アベマシクリブを用いることによる有害事象は、下痢などの消化管毒性、白血球減少や貧血などの骨髄毒性、倦怠感、肝機能障害、血栓症などがあり、ホルモン療法単独群と比べると高い頻度で認められていますが、他方、アジュバント療法としての忍容性も確認されました。
副作用に留意し注意深く用いる必要がありますが、高再発リスク乳がんに対して有意の再発抑制効果が示されたことは画期的で、大きな成果と言えます。
臨床試験には日本からも多くの患者さんが参加されました。術後アジュバント療法へのアベマシクリブの適応は昨年末に承認され、既に本邦でも使われています。
CDK4/6阻害薬(Cyclin-dependent kinase 4・サイクリン依存性キナーゼ)
2) 中間リスクから高リスクの再発リスクの乳がんに対するS-1(TS-1Ⓡ)
S-1はわが国で開発された薬剤で、乳がん、消化器がん、すい臓がんなど多種多様ながん、病態に対して使われてきました。再発乳がんに対してはS-1単独でタキサン単独療法と同等の治療成績が得られることが証明されていますが、術後アジュバント療法における効果は未知でした。日本では、80年代以降、FT-207, UFT, フルツロン, カペシタビン等の薬物が乳がんの臨床に導入され、術後アジュバント療法としては内分泌療法との併用で用いられてきました。NSASBC試験において、UFT2年間投与は、当時の世界標準であった多剤併用CMF療法と同等の効果を示すことが明らかにされています。
POTENT試験(Postoperative Therapy with Endocrine and TS-1)試験
エストロゲン受容体陽性HER2陰性乳癌に対するS-1術後療法ランダム化比較第Ⅲ相試験
POTENT試験では、必要と考えられる標準的治療(手術、放射線治療、化学療法など)を施行したホルモン受容体陽性、HER2陰性の原発乳がん症例を対象に、S-1+内分泌療法群と、内分泌療法単独群との比較を行いました。対象例は、中間~高い再発リスクを有する症例とし、S-1の術後投与期間は1年間です。
S-1投与群の5年無浸潤疾患生存率は対照群のそれと比べて明らかに良好で、生物統計学的に有意の予後改善効果が確認されました。多くの使用経験のある薬剤であり、今回の試験で新たに特別な毒性の発現は認められませんでした。S-1も、今後、ホルモン受容体陽性、HER2陰性の原発乳がん患者の予後改善に寄与することが期待されます。
PARP阻害薬(Poly-ADP-ribose polymerase)
乳がんや卵巣がんなどの治療に用いられる分子標的治療薬で、がん細胞の生存に欠かせない「PARPタンパク」の働きを阻害し、がん細胞の増殖を抑制する薬。
遺伝学的に遺伝性乳がんの原因となるBRCA1/BRCA2遺伝子に病的変異を有する症例を対象にして、PARP阻害薬のオラパリブ(リムパーザⓇ)の有用性を検証する無作為比較試験もグローバル試験として行われました(Olympia試験)。オラパリブ投与群は対照群と比べ、無浸潤疾患生存率において、有意に良好な予後を示しました。米国においては既に薬事承認がされました。―――この後の続きは次週掲載されます。