今日は5月20日、帰国して3日目。時差と激しく格闘している。夜はうつらうつら、テレビを点けたまま寝て、朝に近づくとぐっすり眠りに落ちる。夜中の11時、決まってラーメンが食べたくなって、おなか空いてないはずなのに食い意地張った私は夜泣きそばを作っては食べている。寝不足で思考の焦点が定まらない。ロンドンでのノートパソコンは大嫌いなのだが、仕方なく慣れてきたら、今度はこの備え付けパソコンがしっくり来なくなる、などの理由で書くのが億劫。しばらく書かないと書けなくなる。何事も習慣よ。
さて、ミラノ報告遅くなりました。実はミラノとは名ばかりで、行って見るとそこはスイスかと錯覚する高山湖水のストレーザというリゾート地。ミラノのショッピングアーケードや寺院ドォウモ、そして私の好きなミラノ駅、そう、あのソフィアローレンの映画「ひまわり」の駅など、再訪を楽しみに出かけたのに、なんと一度もミラノの町は見ず仕舞い。でもストレーザは絵から抜け出たような風光明媚さ。誰かが意図的に世界地図から隠していてもおかしくないような、もったいない美しさ。私の魂は完全に癒されたのでした。
久しぶりにインターナショナルな友人たちと名前を呼び合って、抱き合う再会の瞬間、私はたまらなく興奮する。この世に感激の瞬間が幾つかあるとすれば、私はこんな瞬間を先ず選ぶだろう。会ってうれしい人たちと会って、胸熱くする。こんな一瞬を織り交ぜながら、人生は過ぎていくものなのだ。だから、そんな瞬間が多い人ほど得をしていることになる。もう恋人と呼ぶ男性などいなくなって久しい私は、今度は女友達とあの恋情を再燃しているのかも、なんて思ってみる。恋、もう私には縁なきことかしら。
それが、です。17日午後、成田空港に着いて、今回は製薬会社の招待だったので、東京のご自宅までハイヤーの送り付き。言っておきますが、後にも先にもこれは生まれて始めての経験です。ANAの到着カウンターへ行くと既に手配された車のドライバーが待機している。制服着て制帽かぶって白い手袋、まさにハイヤーの運転手さん。「お荷物お持ちします」「じゃあ、おねがいね」なんて、にわか金持ち夫人を気取ってみる。疲れ果てていたのをすっかり忘れて、顔がほころんで抑えがきかない。だって気分いいことこの上ないのだもの。「あら、日産セドリックね」(ベンツはなかったの。日産ならシーマがよかったのに)
運転手さん、私の行く先が目黒区東山だったことが好都合だったらしく「お客さん、コースがいいんですよ、ありがたい」としきりに言って、「それにこんな美人さんでなおいい。やはりイギリスなんか行くような人はちょっと違うんですよね」なんて、私の自尊心をくすぐる。「あら、私はもう66、おばあさんですよ」すると更に「えっ、とてもその年には見えませんよ、お客様、まだまだ色気ありますよ」と更に私を有頂天にさせる。「色気ねえ、忘れていましたね、まだ残っていましたかね、では大急ぎで使わないと、ですよねえ」
今回のミラノ会議の一番の収穫はこの運転手さんとの会話だったなんて、大きな声で人に言えません。つい先日、私の人生、何も希望がないのよね、とげんなりしていた。そこへ「まだ色香あり」とお世辞を言ってもらって、本気にして、ほんわか希望が湧いてきた。