歌を忘れたカナリアは姥捨て山?に捨てましょか、なんていう残酷な童謡を思い出している。というのも私も連載から遠ざかり過ぎて、書くリズムを取り戻せない。どこかへ捨てられてしまいそうだ。先月16日に帰国して以来、ただひたすら忙しかった。息をつく暇もなかったとは私のこの1ヶ月。仙台と札幌に遠出して、合間は新しいニュースレター作りに奮闘、土曜出勤、苦戦して印刷屋に原稿送って、全32ページほぼ完成。冬の事務所で一人終日仕事をするなんて、わびしい限り。しかし、私はまた明日には成田から飛び去る身、始末はきれいにつけて行かなければならない。
「あなたの帰りを待ち侘びている」と病人が短いメールを送ってきた。指の力が衰えて以来、従来のパソコンは使えなかったのだが、キーボードが画面に出る新式の機械をもらって、新しいオモチャで結構遊んでいる様子。子供達は電話で、海苔と、いつもの柿の種(近所に手焼き煎餅屋がある)を持ってきて、との注文。今回はみな私の帰りを待っている。どうだ、やっと私のありがたみがわかったか。悪い気はしないのだが、どちらを去るときも、全身打ちのめされるような悲壮感と脱力感に襲われる。去るのは悲しい。
人間はリズミカルな生活をしているのが最も無難で、そこへ、たまの旅行が入るくらいが理想であって、私のように1ヶ月置きの海外移住パターンは川の流れに逆らっているか、流れを堰き止めてしまうようなものなので、自然ではない。よって、疲れる。飛行機に乗ってしまえば、何も考えないのだが、それまでの焦燥感には堪えられなくなっている。発つ前に、あれこれしなければならないことが多過ぎて、頭がパンクしてしまうのだ。
結局、行きつけの歯医者、加藤先生に歯を点検してもらって、鼻は三宿病院の耳鼻科に行ってレントゲンまで撮ったのに異常なし、なんと神経内科に回されてしまった。心身が病んでいると診立てたか。英国で夫がALSを病んでいるので、と言ったら、先生にわかに身を乗り出して「あっちではみな人工呼吸器を着けますか」と聞く。[えっ、何で先生そんなこと知ってるんですか]「だってあれは僕の専門だ」。そうよ、私もバカね、ALSは神経内科の管轄、そうとわかると、自分の具合はそっちのけで、ALSの話に終始してしまった。
今回の日本滞在、多忙だったけど、いろんな人に会って心暖か。仙台は中外製薬の平井さん山口さんと一緒、牛タン食べて笹かま買って。札幌はノバルティスの玉岡さんの護衛付き、帰りに千歳空港で味噌ラーメンしっかり食べて悔いなき旅。同じ会社の中野部長とは近所で焼肉食べて、エスティローダーの鈴木さんとは仕事で聖路加病院へ行った帰り、渋谷へ出てツバメグリルで和風ハンバーグ、ジョンソン&ジョンソンの近さんとワコールの今西さんは事務所へ来て、私の手作りうどんをみんなと一緒に食べて。かくもバラエティに富んだ人たちに会って、バラエティに富んだ物を次々食べて、充実の日々でした。
みなが私をやさしく励ましてくれる。すみません、でもありがとう。今、日本のみなさんの愛と情けが何よりうれしい。おいしい日本の食べ物はもっとうれしい。今度の旅は長くて、帰国は2月になる予定、だれか、我が家の猫どもにたまに電話でもして上げて。