11月16日金曜日早朝、裏庭の芝生に一面霜が降りて白くなっているのに娘が気づいた。水溜りも凍っている。わあっ、寒そう、氷点下だ。ここの住宅条件は前に較べて何かと劣るが、リビングルームと夫の寝室は天井が超高くて広大、しかもそれぞれ外に面している側は全面が大窓、開放感ありで、勝っている点もある。寝室から芝生の裏庭に歩いて出られる。この景色、そうだ、まさにホスピス。夫が最期を迎えるのにふさわしい部屋。窓外の眺めの中に1本、北海道観光パンフにあるような巨大プラタナスの木が聳え立っている。

 今は寒いのでこの部屋からは外を眺めているだけ。暖かくなれば、車椅子のまま外で日光浴が出来るだろう。庭はこのアパートの住人と共有でも、一階の住人の特権で、いつでも使える。はるか遠い向い側の住宅の裏庭と真中辺を塀で区切られているが、塀の上の空間は繋がっていて、見上げる空は無限大。こういう遊び空間に英国人の住まいに対するゆとり感覚を見る。両側から一棟ずつ何か建てようと思えば優に建つ土地面積なのだから。

 この国はまた街並み景観を重視しているので、どこへ行っても、通り全体が一つにまとまって整然としている。昨日、バスから見たビルの再建光景に驚いた。あのシャーロックホームズで有名なベーカーストリートだったが、ビル一つ壊しているのに、外壁だけを鉄の枠で保護して残してある。内側を建て直して、その外壁を被せる算段なのだ。思わず唸ってしまった。中だけ新しくして、外観はそのまま、街並みはまた元通り、他との調和を崩すこともない。調和など考える余裕もなく、好きに壊したり建てたりする国とは大違い。

 新装相成ったセント・パンクラス駅を見てきた。壮大なアーチ型の天井はガラス張り、メタルの骨組みを丸出しにしたデザインはパリのドゴール空港やソウルのインチョン空港を想起させる。私は天井高い大きな建物、空港や駅が大好き(もう言った?)。博物館や美術館はあの薄暗さと閉塞感で、すぐに吐き気がして、足が重くなって座りたくなるので、余り好きではない。パリとベルギー行きが今までより20分早くなって、パリまで片道2時間15分、ベルギーは1時間51分、東京から名古屋へ行く時間で外国へ行けるなんて。

 でも電光掲示板の時間表の時間にいちいちOn Timeと書いてある。ってことは時間通りでないこともあるってこと。「日本ではこんな断りいちいち書かない、On Timeが当たり前だから」とイギリス人に言ってやった。ついでに、ここでは遅れても誰も文句言わないからえらい、と皮肉も言えば、「文句言う気にもならないからだ」「第一、On Time でないときが普通で、大抵はDelayed(遅れます)、で次はCancelled (出ません)となるんだ」と嘆く。日本って鉄道に関してはその正確さにおいて世界一でしょう。緻密なことには秀でている。

 遂に風邪が本格化して声が出なくなってしまった。病人の世話に地球の反対側から来て、病人になってしまったのではどうしようもない。霜が降りた日の午後4時頃、病人がベッドに仮眠に入った隙にヘルパーのピースとソファで何も掛けずに寝入ってしまって、彼女が帰った後も起きられずに寝続けたのがたたった。寒かったが起きられなくて。不注意。本当にばかげて言うのも飽きたが、実は未だに時差ボケ治らず、20日経った今朝も2時半起き。「就寝前にのみ飲みなさい」という英国製喉シロップを飲んで、もう一度寝てみよう。