風邪5日目、紅茶を作ってくれたジェニースが、具合は、と聞いてくれたので、薬は何ものまなかったが(薬がない)治ったみたい、と答えると 「あんたは免疫システムが強いのだ」 と感心してくれた。 さすがナースの資格を持っている人のコメント。褒めてもらって、私もまだまだ捨てたものではない、と一人ほくそえんでいる。 風邪薬だが、実は日本から抗生物質と一緒に持ってきた、ところまではよかったが、スーツケースのポケットから出さないまま、娘がそのスーツケースをバンコックへ借りて行ってしまった。 お粗末記。

 ノバルティスの玉岡さんから電話。 「あら、どこからなの」 「今、パリ」 「えっほんと」 「ハイ、ほんと」 私のボーイフレンドはかくして大体が製薬会社の社員さん。彼らは自社の秘薬をのんでいるのか、元気で明るくて楽しくて冗談が通じて、気持ちがいい。勿論、商売抜き。抗がん剤を不当価格で貧しい患者に売りつけて金儲けをしているあくどい会社の回し者・・・・・なんだけど。 ああ、言ってやってすっきりした。玉岡さんはプラハの会議からの帰途だった。プラハ、夢の都、今一番行きたい町、プラハの春、一緒に行きたかったわ。

 日本にいた3月28日、中外製薬のキックオフ大会に招かれて一席ぶってきた。と言っても割り当ては20分だけ、倍の40分は喋りたかったのに・・。おまけに4人のスピーカーのトップバッター、本当はトリをつとめたかったのに・・。でもね、癌研有明病院化学療法科の畠先生、横浜から化学療法専門ナース、聖路加病院の薬剤師先生、なので譲るしかないではないか。私は最年長というだけで 「やはり野に置け、れんげ草」 的存在だものね。

 キックオフとは、製薬会社が新薬の承認を得て、いざ売り出さん、というときに全国からMRさん(病院回り御用聞き?) を集結させて 「エイエイオー、いざ出陣」 の旗揚げ会。あの日は500近い数の、主に黒服の男たち。やくざの襲名披露みたい、って言ってしまった。幹事連は私をよく知らなかったので、もともと演者の中に入っていなかったのを平井さんたちが強く推してくれて実現した。肝心の彼は英国に来ていて不在、でも、好評だった報告を受けていたので 「よかった、ワットさんにおねがいして」 と何度も言ってくれた。

 患者のなまの声を聞いてくれ、と叫んだ私はエライ。抗がん剤は高い、患者は泣いています、自分の病気のせいでお金が出る一方なので、家族に申し訳なく心苦しくせつない、特に若いカップルにはこたえる、実家に借金している人、自分の生命保険を担保にお金を借りている人、そして、年寄り患者は、年金ではとても払えないので、薬はやめました、と訴えている。現状は悲惨、これを知らないで、何が患者中心の医療ですか、きれい事ばかり言わないでよ(ちょっと違う?)。いいのだ、ついでに言ってしまえるものは言え言え。

 玉岡さんとパリで偲び合いをすればよかった。エッフェル塔、凱旋門、モンマルトル、シャンソン、オニオンスープ(あれっ)。でもお相手はイブモンタンがいいな、彼もジャンヌモローならいいと思ったでしょう。私は免疫は強いらしいけど、顔はやつれて鏡を見るとぞっとする。往年のスター、グレタガルボや原節子さんが大衆に顔を見せなくなったように隠せるものなら隠したい。10月韓国行き、垢取りではなく皺取りをやってもらうか。