この家は多国籍、人種のるつぼ。ご存じの通り、夫はイギリス人、私が日本人、メイドのピペちゃんがタイ人、そしてお初に紹介いたしますが、娘の婿どのはなんとインド人。あのダージーリン.ティーが取れるダージーリン地方の出身。娘は日英、3歳半になる孫娘は結果的に日英印の混血児。なぜバンコックかと申しますと、娘がここにある国連で働いているからなのです。

  私は昔から人種差別には断固反対で、すべての人間は平等に扱われるべき、と博愛主義を通してきた。しかし、ここだけの話だが、インド人の婿さんを好きになれない。好きになる努力をするつもりもない。「ドクトルジバゴ」のオマーシャリフに似ていて(テロリスト系の顔でもある)、遠くから見るのはいいのだが、そばにいると気味が悪い。

 この家のインド人は、病気ではないのに、完全菜食主義。それも徹底していて、野菜でも肉のスープで煮たらダメ。海老・かに・ダスト・アレルギーで喘息持ち。そして、仕事はデンマークの大学で英文学助教授、単身赴任です。目下冬休みで寄生虫、じゃなかった帰省中。この人、当地のスモッグに弱く、帰宅した日から3日3晩、喘息発作で咳をすることしないこと、ひどい咳は内臓の一部が飛び出したと思ったほどの激咳。誰も眠れない。この人のほうが先に死ぬのではないの。(娘と母親とどっちが先に未亡人になるか)

 婿さんは娘の夫、私の夫ではないので私の個人的好き嫌いは問題ではない、わかっています。彼は学者さんなのでいつも理詰め、たとえば、コンピューターの台は62センチが理想、自分の肺活量は40%なので、生活力は50%しかない、とまずはこういうふう。しかし、常に冷静で、夫の身の処し方も娘や息子が感情的になるとストップを掛ける。息子が仕事をやめることは実は彼は反対だった。自分の生活を続けながら、できるサポートをするべきだと。正しい。こうして突き放して考えるスタイルは私とよく似ているので、われわれは話が合うのに。

 孫のリラはタイ語ぺらぺら、メイドと仲良く会話している。私の悪口を言っているに違いないのだが、さっぱりわからない。日本語はしゃべれないが、あいうえお、かきくけこ、を全部言い、ぞーさんぞーさんお鼻が長いのね、むすんで開いて、など日本の童謡を難なくメドレーで歌い、驚くことにはインド語の歌もCDに合わせて歌う。そして、メイドとタイ語で、振り向いて私に英語で、と同時でも完全に使い分けする。この音声多重能力は驚きだ。

 日ごろ父親がいなくて、母親は仕事で大体帰りが遅くて、一人っ子で、おばあちゃんおじいちゃんは年2回くらいしか来なくて、そんな寂しい環境で育ってかわいそうだと思っていたが、傍で案じることは無用のようだ。生れ落ちるや四つの国のミックス文化に恵まれている3歳半児。つい嫉妬してしまう。今回の一件でにわか大家族になって、最も喜んでいるのはリラでしょう。