人間のエネルギーは発奮したときに吹き出る。昨日土曜日の朝、孫娘の食事態度が気に食わないと怒って家を飛び出した。朝の8時半、外はまだ薄暗く3度。吐く息が白いが、かんかんに怒っていて寒さを感じない。週末なので道行く人もまばら、飛び出したものの行く当てがない。なのに、体が前へ前へと動いて止まらない。スイスコッテージ通りにあるルイーズという店に入ることにした。いつも通りから覗いていたガラスケースに巨大なクロワッサンとシナモンロール、どっちも一度は食べてみたいと思っていたのだ。

 一人でコーヒーショップに入る、それだけのことだけど、こっちへ来て初めてだったことに気がついた。いつも誰かと一緒。
入り口でコーヒーとクロワッサンを頼むと
「ホワイト?」
ブラックではないミルク入りコーヒーをここではホワイトと呼ぶ。
老いた男が一人、常連席に座るや新聞を広げる。何も言わないのに、お決まりメニューを出して、グッドモーニング。
そこへまた別の老いた男が入ってきて、親しく二人の女店員に話しかけながら一番奥の席まで歩いて行って座ると、カプチーノが出された。
ここはハンガリー系の店。

 クロワッサンが日本のアンデルセンの150円の3倍はある。こっちのはコーヒーと合わせて3ポンド、約700円、コーヒーも小どんぶりサイズのカップになみなみ、こっちのほうが得でしょう。クロは食べきれないので、半分お持ち帰り。思えば、朝は毎日でもこうして町へ出て一人でモーニングを楽しめばよかったのだ。でも一日中時差で頭がボオーッとして体が起きないので、朝に強いはずの私でも動けない。今朝は4時少し前に目が覚めた。これでようやくマイライフ。何のことはない、時差調整のための1ヶ月だった。

 孫は食事を見ても飛びついて食べない。お腹が空いているのかおいしいのか、反応しないで、食べさせられているから食べるという感じ。日ごろから気付いていたが我慢していた。週末なので特製ハム&マッシュルームオムレツを作ったのに、食べながら、マーマレードがいいという。喜こんでくれると思ったのに。期待が裏切られたのが聞けないと怒った私は考えてみると、直系の祖母、血が少しつながっている。5歳の子を相手に本気で立腹するとは大人げない。食に興味を示さないのは父親譲りだ、今度は父親が憎くなってきた。

 しかし怒ったおかげで自分の世界が広がった。もうどこでも行ける。早朝のコーヒーショップに日曜の朝も行ってきた。同じメニュー。今朝は私より年寄りの常連女たちが二人、朝食を取っている。都会の一人暮らしに違いない。私の未来もこんなふうに孤独なのか。相手がいればいっぱいのコーヒーでも話しをしながらおいしいのに。でもここは雰囲気があるから一人でも来たくなるけど、池尻大橋駅のドトールはつまらん、簡易喫茶だもの。

 午後にあのローズメリーが来るというので、また逃げて出た。
あの女の相手はしたくない。
今度は映画館へ。
「スルース」マイケルケインとジュードロー、前評はよくなかったけど私は一人多いに楽しんだ。
ジュードが変装して二役、探偵になりきる場面、ケインはクローズアップされた目の動きで物を語る、表情のうまさ。映画批評に惑わされないで観てよかった。
これは実はリメイク。
元はローレンスオリビエとマイケルだったのを、老いたマイケルがローレンスの役に回り、若いジュードがマイケル役。
もう一度見に行くつもり。

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