夕べ、台湾のローラの娘、エーミーが同じく台湾から来たルームメートの女の子と一緒に家に来た。地下鉄スイスコテージ駅まで私の代わりに娘が迎えに行ってくれた。無事な顔を見てほっとした。というのも、ローラから、夏休みに英語の勉強でロンドンに来てホームスティしている16歳の娘の様子を知らせてほしい、と頼まれていて気になっていたのだ。彼女には台湾で一度、日本で一度会って‘日本のお母さん’と呼ばれている。スティ先に電話を入れても故障で2,3日通じず、ようやく通じたときは「ケータイだから会話は短くして」という大声が聞こえたので、ケチなオバンの家だな、と心配が膨らんでいた。

 「あんたたち、ご飯食べたいでしょ、お米、食べてないんでしょ、食べなさい」着いて座るなり、台湾人は米に飢えていると決め付けて、ご飯を押し付ける私。夕飯済ませたから、と断られたのにそれを遠慮と決め付けて、ご飯よご飯、と叫び続けている私。いい加減にせよ。しかし、代わりにアイスクリームとぶどうを出すと思い切り食べてくれた。

 先日パリからの帰りの列車にも台湾から子供たち21人の大群が乗っていて、オックスフォードでホームスティすると言っていた。私のことゆえ、この際とばかり、「台湾ね、友達がいるのよ、イー・アン・サン・スー・・・」知っている中国語は一から四までだけなのに、調子に乗って披露する。すると子供たちはイチ、ニ、サンと勢いよく10まで日本語で数えて見せる。くやしい。本当に私は日本のバカおばさん。でも、数独をしていると覗き込むので、初級用のページを切って渡して、解き方のコツを教えてあげた。すると自分たちで解いて喜んでいる。どこへ行っても誰とでもすぐに仲良しになる私に娘は呆れ顔。

 その中にいた13歳の男の子がなんとあの「モーリー先生の火曜日」の中国語版をかばんから取り出して読んでいる。ALSに罹ったモーリー先生を火曜日になると訪ねて、最後に亡くなるまでの会話を淡々と記した世界的ベストセラー。「その本、わかる?」と聞くと、「宿題なので仕方なく読んでいる」と答える。夫は一つ前の車両にいて、その子は見ていないが、本を読み終えていたなら、連れて行って、実物を見せてあげれば完璧なシナリオ。

 近所の渡辺さんから、猫のジローがベランダでスズメを食い殺した、とショッキングな報告が入った。なんということ、ジローちゃん、よほど気が立っていたか。そうだ、私はジローとキティの母でもあったのだ。1ヶ月も留守にすれば、猫たちも心細くて気がおかしくなるわね。あっちもこっちも、といわれても私の身は一つ。それより、スズメの残骸を第一発見した渡辺さんこそ、心臓が止まっただろう。やはり現実はヒッチコックより恐怖。

 夫がスウィブル(立って掴まって回転できる器具)にまっすぐ掴まっているのが難しくなった。トイレ、シャワー、ベッドからの寝起きの都度、それに掴まらせておいて両脇からお尻の下に手を入れ、1,2,3で巨漢を持ち上げる息子と娘を見ていると胸が八裂ける。ホイストも使えるのだが結構面倒くさい。せめてものご褒美に、腕を振るってとんかつディナー。ソースがないのでケチャップで。これぞ日本の味、二人は嬉々として食べて、自分たちの身に起きている現実を少しも不幸とは思っていない。この健康さが不思議。