今日は朝から体が重だるい。ついにダウンサインが出たのか。大体が柄にも似合わない病人介護なんかに全身全霊を込めるから、体が音を上げたのだ。なら、下のプールにでも飛び込んでこよう、気分が優れないときは水に入って体を動かすとすっとする。幸い、ランチタイムで誰も泳いでいない。水着に重いパットを付けなくても片パイを見破られる恐れはない(これが乳がん患者の悩みでございます)

 一人で悠々スイミング。このプール私のもの。幅10×長さ15メートルを平泳ぎで10周(休みながら)。そして、パチャパチャ犬掻きみたいにして足を100回ばたつかせる。頭上を飛行機が越えてゆく。航空会社がわかるくらいの低空を飛んでいく。ドンマンエアポートを飛び上がったばかりなのだろう。青い空、白い飛行機雲。飛行機こそ自由の象徴。飛んで、見知らぬ国へ行くなんて最高にロマンティック。その自由の翼に夫はもう一人では乗れなくなった。

 泳ぎ終わって着替えをしようとすると、なんと、下着に薄ら赤い血。えっ、私って今度は子宮がん?面倒くさい。今病気やってる暇なんてないのよ。あと4日で日本に帰るので、いつもの三宿病院へ行って検査してもらわなくちゃ。もう3・4年検診サボっているからバチが当たったのだわ。ストレスによる不正出血ってないのかしら。あればそれなんだけど。

 日本からみなさんがメールで「会長さんが倒れないように気をつけてください」なんていってくれてありがたい。けど、介護は手抜きができないんだから、80キロの巨体を立たせるのに何回持ち上げたと思います?私がいる間は娘にさせるわけにはいかないから、自分の腰痛なんて無視して、まさしく火事場のバカちから、でやってます。日本に帰って自分のベッドで、ふてぶてしく寝たい。猫のキティは私の頭の左横の電気パッドの上で、ジローは私のベッドの足元で、犬のしんちゃんはベッド下の床でぐうぐういびきをかいて眠る。憐れ、見捨てられた犬猫どもよ、もうすぐ再会だ。しんちゃんが千切れんばかりに尻尾を振って喜ぶさまが目に浮かぶ。

 でも感心なことには私はどこへ行っても自分の習慣を100%なくしたりしない。まず朝は朝刊を読む。英字新聞も何とか読めるので、この国でもアメリカでもフランスでも英字で読む。日本語新聞は70バーツ(210円)で買えるので、時々買う。ヨーロッパでは600円もしたことがあった。国内で移動しても朝は必ずその県の地方紙を買って読む。

 次にテレビと音楽。TVで好きなクラシック白黒サスペンス映画でもやってくれれば、泣きそうに幸せ。そして、音楽。誰もいないときを見計らって、あの冬ソナCDを聴いている。いかになんでもちょっと古い。が、曲を聴いて、どんなシーンでかかっていたかを思い出そうと記憶力テストする。DVD、軽く10回は見て、韓国語だけでもわかるくらいセリフを丸覚えした、暇だったあのころ。

 それから、近くの富士スーパーへも一人で行って、好きなもの買ってきて病人と家族のためにせっせと料理をしています。でも3食毎日は疲れる。朝食が終わると昼のメニュー、昼が終わると夜のメニュー。人はパンのみに生くるにあらず、なのに、この家ではパンのみに生きている。知性が泣く。重くて運べないくらい買ったときはチクタクという軽3輪を頼めば 40バーツ(120円)で荷物と人間を後ろの荷台で運んでくれる。

 タイ人のメイドとも仲良くして、屋台で売っている炭焼きチキンを買って一緒に食べたり(なんという勇断、私のおなかは弱いのです)、彼女が作れる唯一のココナツスープを褒め称えて再三作ってもらい、友だちのように接して、なんでも頼んでしてもらって、ゆめゆめ命令して働かせるようなことはしない。私が日本に帰っている間、彼女が介護主任になるので、今のうちにせっせとゴマをすっているずる賢い私。

 こんなことで私のストレスは最少に保たれているかは真にあやしい限りです。

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