ロンドンから無事戻りました。とにかく寒かった。連日小雪が降って、最低気温は零下で、昼間も風が冷たくて、体感温度はどのくらいあったか、とにかくぶるぶる震えて逃げ帰ってきました。エスティ・ローダーの社長さんにそれを報告したら、日本も結構寒かった、とあまり同情してもらえなかった。ロンドンの町並みは整然として重厚。思わず身を正したくなる雰囲気でした。陽気のいいときに再訪したい。

 会議のほうはいつもの顔なじみメンバーで和気藹々。キプロス、フランス、ドイツ、オランダ、スウェーデン、カナダ、オーストラリア、イタリア、スペイン、アメリカ、地元イギリス、そして、ジャパン、かなりのインターナショナルでしょ。アジアから一人なので、心細かった。ドイツ人が「もう少しゆっくり話してください。早すぎて、わからない」と言ってくれて、ホッとしました。顔を見ただけではみんな英語圏に見えても、そうでない人もいるのです。

 アストラゼネカ社はホルモン剤系の製薬会社なので、今回は最新アロマターゼ阻害剤のお話がドクターからあったのですが、それ以外は全員参加型の授業形式。前に黒板の代わりに大きな紙があって、そこへめいめい書き込む。「がんと告知されたときの心理状態」「臨床試験について」「がんが再発したときのリアクション」「末期と宣告されて」という四つに分かれていて、自分の考えを書いていく。

 最後のテーマ「末期とわかって」のところへ、「この段階で、主治医だけでなく、セカンドオピニオンを求める人もいる」と書いたら、「セカンドオピニオン」が始めて出た、と言って少し喜んでもらえたので、これだけでも遠い日本から来た甲斐があったのか、なんて自己満足した。やはり一つくらい人と違う貢献をしなければです。でも、とにかく各国の代表は揃って賢くて、専門知識も専門家並みで、とても付いていけないと劣等感に苛まれました。

 それでも私は習性として、余興のお時間になるとにわかに元気を取り戻す。今回は夕食中にカラオケの話が出て、誰かが歌を歌ったらバックコーラスを付ける、そのグループを結成しようという動きになって、ならば、グループに名前を付けましょう。すかさず私が「ピンクリボンシスターズは」というと、すぐに決まってしまった。私が名付け親というわけ。こういう展開になれば、やはり私はずば抜けた才能を発揮するからすごいと思いませんか。

 愉快だったのはお別れ間際に、サンフランシスコ代表が突然真面目な顔で「重要通達がある」と言うので、みな何事かと彼女を見ると、紙に書かれた三つの曲名を発表して、ピンクリボンシスターズは次回のミーティングまでに歌えるように練習してくること、というのです。本当にこの人たちはおめでたい。

 こういう遊び心が羨ましい。「見てよ、あんた、すごいことをしたのよ」とイタリア代表が私にいたずらウインクを投げてくれて、その瞬間、ロンドンの寒さをすっかり忘れて心あったかになったのでした。