戸井雅和<br>京都大学大学院医学研究科<br>外科学講座 乳腺外科学教授戸井雅和
京都大学大学院医学研究科
外科学講座 乳腺外科学教授
戸井先生がこの度、日本乳癌学会の理事長にご就任されました。ご挨拶の一部をご紹介します。

 

乳癌の多様性に対応する

乳癌は多かれ少なかれ女性ホルモンに依存し、その特性を一言でいえば多様性に尽きます。多様性に対応すべく、集学的治療があり、Evidence Based Medicine(科学的根拠に基づく医療の実践)が重要で、チーム医療を必須とし、更なる進化のためにはPrecision Medicine(それぞれの患者に合ったより最適な治療を行う医療)が必要です。腫瘍サブタイプの概念が導入されて、(分子)標的薬の開発が進み、遺伝性乳癌の診断、予防、治療が行われるようになり、さらに腫瘍ゲノム解析、免疫療法の導入に至っています。

治療成績の向上とQOLの改善が同時に実現するようになった

外科治療、放射線治療、薬物療法全領域で、治療のEscalation(過剰な治療に伴い治療効果が上がること)De-escalation(適切な治療―-治療を減じても治療効果は変わらないので減じる)が進展し、治療成績の向上とQOLの改善が同時に実現するようになりました。画像診断、病理診断、形成外科の進歩は著しく、他方、若年性乳癌、高齢者の方の乳癌に対する治療、ケアも飛躍的に良くなっています。

乳癌は今も増加の一途、死亡者数も減少に至っていない

一方で、乳癌の新規発生は増加の一途を辿っており、現在、日本に住む女性は、10人に一人あるいはより高い頻度でその生涯において乳癌に罹患すると推定されています。死亡者数も、発生数の著しい増加の中では、未だ明らかな減少に転ずるには至っていません。一人一人の患者における治療の最適化、新しい診療法の開発等とともに、早期発見、予防、罹患リスクの評価、スクリーニング、早期治療が大切と考えられます。

乳癌は女性のCommon Disease! Survivorshipを支援すべく基盤を整備したい

乳癌はまさに女性のCommon Disease(よくある病気)であり、治療やフォローアップが20年以上に及ぶ特徴をもった病気です。正確かつ精密に診断し、的確に急性期の治療を行い、その後長期の治療、フォローアップを継続する、それぞれの場面場面では施療とともに手厚いケアが不可欠です。がんからsurvive(生還)するため、そしてSurvivorship(がんの後、生き延びること)を支援すべく、基盤を整備したいと考えています。

患者満足度の高い医療を実践する環境を整える

それぞれの環境、施設、地域において連携し、ガイドラインに基づくハイレベルの診療を行い、患者満足度の高い医療を実践する、その様な場環境を整えることの重要性が指摘されています。成果は学術総会、地方会などで発表され、学術誌等を通じて発信されます。学術集会、Breast Cancerは充実度を増し、国際性豊かで、認知度も上がりました。ぜひさらに向上発展して、プレゼンス(存在の意義)を高めて行きたいと思います。
(お断り:カッコの注釈と小見出し・太字は当方で入れて、戸井先生に見ていただきました)