近影・大野真司先生近影・大野真司先生 皆さま、2022年の初夢はいかがだったでしょうか。私は2023年の第31回日本乳癌学会学術総会の会長を担当させていただきます。そこで、これから1年半をかけて準備する総会のことや、その先にある未来への夢について紹介させていただきます。

「Conquer Breast Cancer(乳がん撲滅)」
 「Conquer Cancer (がん撲滅)」は世界の願いであり、乳がんに関しては「Conquer Breast Cancer(乳がん撲滅)」が最も大切なことです。乳がんができない、乳がんにならない、乳がんができても治る、ことですが、そのゴールはまだ見えず、ずっと先かもしれません。いつか飛躍的な進歩があって、ゴールに到達する日が来るのでしょうが、見た目は飛躍的でも、そのプロセスは皆が力を合わせて一歩一歩進んでいったからだと思います。
 ギリシャ神話に「Standing on the Shoulders of Giants(巨人の肩の上に乗る)」という話があります。リンゴが木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見した科学者アイザック・ニュートンが、ライバルであり友であるロバート・フックに宛てた手紙に使われた言葉として知られています(私がかなたを見渡せたのだとしたら、それは巨人の肩の上に乗っていたからです: If I have seen further it is by standing on the shoulders of Giants.)。この言葉には感謝と尊敬、謙虚な気持ちが含まれています。
 医学の発展も先人たちの努力によって今があり、今の頑張りによって未来が拓けてきます。最初の抗がん剤は第二次世界大戦のときに米国の軍艦がイタリアの港で爆撃された際がスタートでした。軍艦に積み込まれていた液体状の毒ガスが海に流出し、そこに飛び込んだ水兵さんたちが、その後、白血球減少によって重体となりました。この毒ガスを改良して、白血病患者で異常に増加した白血球を下げる治療となるサイクロフォスファミド(エンドキサン)となりました。

今年、いくつもの新薬が術前術後乳がんや進行再発乳がんに保険承認されていくでしょう
 現在、乳がんで使われているAC、EC、TC治療の「C」はサイクロフォスファミド(cyclophosphamide)のCです。抗がん剤治療中の副作用として白血球減少がありますが、それは抗がん剤自体の役割が白血球を下げることだったからです。このサイクロフォスファミドを利用したCMF療法が最初の乳がんの術後化学療法で、その結果が1975年頃に発表されました。
 当時のリンパ節転移陽性乳癌の10年無再発生存率はわずか35%でしたが、その後さまざまな薬物療法が開発されて2015年には70%になりました。最近では、乳がんはルミナル型、HER2型、トリプルネガティブ型と分かれ、それぞれに合った薬物が開発されているので、さらに治療成績は良くなってきています。
 この話をさせていただいたのは、過去に多くの患者さんが新薬の臨床試験に入ってくださったために今の治療があり、今の患者さんが更なる臨床試験に入ってくださるので未来がある、そして「未来は明るい」ということをお伝えしたかったからです。
 2022年、これからいくつもの新薬が術前術後乳がんや進行再発乳がんに保険承認されていくことになります。その積み重ねによって、乳がんで苦しまれる方が減っていくことだと思われます。また私どもの第31回日本乳癌学会学術総会のポスターには「Standing on the Shoulders of Giants」を小さく加えるつもりなので探してみてください。

医療者と患者さんが一緒に作り上げていくことを目指している
 その第31回日本乳癌学会学術総会では、医療者と患者さんが一緒になって作り上げていくことを目指しています。総会の3日間(2023年6月29日~7月1日)の発表がすべてではなく、その前の1年間のプロセスを公開し、患者の皆さまにも参加していただきたいと思います。この7月から開始するにあたり準備をしていますので、ぜひ、いろいろなご意見をいただきますようお願いいたします。
 コロナ禍でオンラインによる講義や会議が当たり前の時代になりました。直接会って話し合うことに制限が出てしまいましたが、オンラインだからこそ、時間と場所の制約が小さくなったという利点もあります。それを生かして準備をするつもりです。
 私たちは感謝と尊敬、謙虚な気持ちを常に持って乳がんに向かっていきたいと思います。「Conquer Breast Cancer(乳がん撲滅)」この夢を果たすべく、皆で力を合わせていきましょう。今年もどうかよろしくお願い申し上げます。

 ★大野真司:がん研究会有明病院・副院長
        乳腺センター長
        感染症科部長
                  患者・家族支援センター長
                  サバイバーシップ支援部長
                  医療クオリティマネジメントセンター長
                  院内感染対策部長