日時:2024年9月22日(日)13:30~16:30
会場:ウィリング横浜 研修室503
参加:36名 (会員 31名、一般 5名)
  演題:~続々と承認される新薬~乳がん治療はどう変わるか
  講師:国立がん研究センター中央病院 腫瘍内科 下井辰徳先生

 今年の第一回あけぼの神奈川講演会は下井辰徳先生に新薬のお話をお願いしました。はじめに乳がんの疫学、リスクファクター、診断のための検査や分類、サブタイプについてなど基本的なお話がありました。補完代替療法を選択するよりも、比較臨床試験等によって証明された最良の治療と考えられる標準治療を優先する方が良いことの説明がありました。他にも事前質問があった希少乳がん「浸潤性小葉がん」についても解説してくださいました。

 転移再発治療については、オリゴ転移(少数転移)についての研究のこと、HER2低発現の方にもエンハーツが使えるようになり治療が変わってきていることなどのお話がありました。近年の変化として、薬剤費の高額化が経済毒性という新たな毒性として評価されるようになってきていること、臓器別の治療選択から臓器の枠を超えて、遺伝子異常に基づいて治療薬が使われるようになってきているなどがあるようです。

 BRCA遺伝子変異陽性の方にはオラパリブ(リムパーザ)が使われていますが、今年再発治療にPARP阻害薬のタラゾパリブ(ターゼナ)が承認されているそうです。5月に保険承認されたAKT阻害薬のカピバセルチブ(トルカプ)はゲノム検査をして投与できるかが決まるけれども、この検査を早期におこなうことが保険制度上難しいという問題があるとのこと、患者としては早く何とかならないものかと思います。

 最後に今後の新薬開発状況、特に期待が高い薬剤が紹介されました。経口のホルモン療法剤(経口SERD、SERCA、PROTAC)や、HER2陽性乳がんのための飲み薬ツカチニブ(承認申請中)が有効とのこと。トリプルネガティブに対するサシツズマブゴビテカン(トロデルビー)や、ホルモン陽性に対するダトポタマブデルクステカンは、日本でも薬事承認間近だそうです。

 以前は「ドラッグラグ」が問題になっていましたが、このところ問題になっている「ドラッグロス」についても解説していただきました。海外で標準治療になっている新薬が日本に導入されない場合があるとのこと、自分に有効かもしれない薬が海外にはあるのに使えないという状態は患者にとって深刻な問題です。

 難しいお話もありましたが、参加者はメモを取ったりして熱心に聴いていました。
 後半は質問会で、先生はいろいろな質問、疑問にわかりやすく答えて下さいました。
 下井先生、本当にありがとうございました。

報告者:あけぼの神奈川代表 牧野葉子 akebonokanagawa@gmail.com

【参加者からの感想】
・通常の受診では得られない情報で有意義でした。専門医からのお話だけでなく質問会があることで、身近な内容に触れられてわかりやすかったです。
・いつもためになる講演会をありがとうございます。近いうちに承認される新薬がいくつかあると伺い、未来が明るくなりました。頑張ってそれまで元気でいようと思います。
・いろいろな研究結果をもとにお話ししてくれたのでとてもわかりやすかった。新しい治療や治療選択のポイントについて聞けて、非常に勉強になった。オリゴ転移、サブタイプが変化するなど知らないこともたくさんあった。
 病気になってしまった事は不安だし、再発についての不安も消えないとは思うけれど色々な新しい薬や治療についての研究が進んでいるんだなと実感して嬉しく感じた。
・とてもわかりやすく説明してくださり勉強になりました。製薬会社が日本で薬の開発をするメリットを感じなくなりつつある事はショックでした。
 一方、微小転移やドライバー遺伝子に関する研究など、より効果のある治療、根治も目指す治療の研究が進んでいることは励みになりました。がんの治癒率がより高まる日が来ることを願っていますし、そのために日々努力してくださっている医療者の方々、関係者の方々へ感謝する日々です。

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