第27回日本乳癌学会学術総会(7/11~13)開催中の中日、12日に患者会としては初めて「患者セッション」があけぼの会主催で開催されました。211名の参加で満席でした。
――「医師への注文-患者は治したい、治してほしいのです――
第1部:講演
①「世界の乳がん治療は今」講師:大野真司先生(がん研有明病院副院長・乳腺センター長)
●大野先生はDe-escalation & Escalationの視点で。オンコタイプDX(遺伝子検査)の再発リスクの中間スコアの患者の化学療法の回避についての研究結果。これまでのホルモン受容体やHER2ではなく、プレシジョン・メディシン(←クリック)、即ち、遺伝子の異常に合った薬を使うゲノム診療。サブタイプの前に、BRCA陽性、陰性をつけて、『BRCA陽性ルミナール』『BRCA陰性ルミナール』というでは新たなサブタイプの呼び名。
さらに、リキッドバイオプシー(血液などの体液サンプル)による低い侵襲性、豊富な情報、頻回に検査できるというメリットによって、検診や薬剤投与のタイミング、省略、即ちDe-escalationができる等、ゲノム医療の進歩がこれからの乳がん治療に大きく影響を与えるという内容でした。そして、最後に、先生が尊敬されているポルトガルのDr. Fatima Cardosoのスライドで、「再発乳がんに向けられた研究や支援を進めよう」という非常に心強いメッセージの紹介がありました。
②「乳がん専門医が乳がんになって」講師:田中眞紀先生(JCHO久留米総合病院病院長)
●田中先生はご自分の乳がん体験から、一人のがん患者として、母として、医師として、そして今は病院長として働いてこられたこれまでを、患者を体験したことで、患者さんへの説明が変化したエピソード等を織り交ぜてのお話。先生をとても身近に感じました。そんな中で、薬の副作用について「原因がわかっているので利益、不利益を考えると副作用は我慢できる。」と言われたのがとても印象的でした。
パネルディスカッション
休憩をはさんで、パネルディスカッション「医師のひと言が患者を救う」がワット前会長の司会で始まりました。患者代表で埼玉県の安田さんが登壇、「副作用についてもっと説明してほしかった」と患者の思いを述べられ、寄せられたメッセージにも、患者の心が治療の中で置いてきぼりにされている実情が述べられていました。会場からも、術後まもなく、再発を告げられた時に「今、ここから延命治療をしましょう」と言われた時に、治る話は出てこなかったことがとても辛く、「治るように一緒に頑張りましょう!」と言ってほしかったと発言されました。この方はその後、セカンド、サードオピニオンを受け、今は自分が納得のいく治療を受けておられるようですが、先生がたからはその治療は標準治療でないとアドバイスがありました。
また、大きな話題になっているベージニオ治療薬について、今は、医療者向け冊子を作成し医療者に注意喚起していることが紹介されました。と同時に、新薬を使う時、特に新薬は治療を重ねてこられた患者さんに投与されるので、新薬への期待と投与の難しさの狭間に患者も医療者も置かれているという厳しい現実が話されました。
再発の時、「治癒は難しいけれど治療はできる。嘘をついてはいけない。真実を話さなくてはいけない。完治は難しいけれど、希望を持てることを伝える」と前述のDr. Fatima Cardosoの言葉が紹介され、最後に、先生方からみなさんにメッセージが送られました。
大野先生:「コミュニケーションが大事。医療者は病気を診てしまうが、人を見て喋らないといけないと思う。医師を育てるのは患者さんです。声を殺さずに発して欲しい」
田中先生:「治療は皆さんを元気にし、その後の人生を取り戻し、全うする為にある。通り過ごす為にあると思う。お互いに勇気付け合って明日からも頑張っていきましょう」
ワット前会長:「それぞれが言いたいことを話せる友、通じ合う友を持つ。心に納めておかないで心を、思い、を軽くして生きていく」
締め:今回、臆せず、患者と医療者が本音で向き合ったとても意義ある素晴らしいセッションだったと思いました。
菊井津多子 kikui@crux.ocn.ne.jp