●明日から大英帝国。5月9日に帰国して以来、実に7ヶ月半ぶり、荷作りに緊張している。思えば、2005年12月に夫の病気が確定診断されてから、初めのころは1カ月おきに日英往復をくりかえしていた。トータルで実に24回、成田・ヒースロー通いをしていたことが判明(それまでは数えていなかった)、その回数に誰より当の本人が驚愕して、足がすくんで体が固まって全身脱力してしまった。私のことだから、本能的に、この間、お金をいくら使ったのか、と大まかの金勘定して、そのショックで体が凍ってしまったのだ。
●「6ヶ月の命」という当初の予測が大幅にずれて、丸6年も生きている。喜ぶべきなのだが、正直、家族は疲れてきている。2009年9月からホームに入れてもらって、娘も孫と丸4年の長期看病休暇の末、バンコクの職場に復帰して、それまでの結束介護システムは解散した。息子が二人のバイトさんに助けてもらって、全部を見てくれている。緊急事態が起きると、今にも死にそうなメールを送ってくるので、娘はその都度飛んで駆けつけている。私は無理に来なくてもいいと言ってくれたので、ずっと戻っていなかった。
●それだけではなく、あの富樫さんがいなくなって、おいそれと事務所を留守にできなかったこともある。「富樫さん」と名前を書くだけで、今でも涙があふれ出る。夫は無為に生かされている。体が全く動かない、指の一本も動かせない、食べられない、話せない、聞くことはできるが、聞いても反応する力がない。無表情で、ただベッドに横たわるだけ。酷な病、業病。片や、富樫さんは56歳という若さで、バリバリ音を立てて仕事をしていたのに、無情は突如、あの人の命を奪い去ってしまった。命は譲り合うことができない。
●出発前にニュースレターを作るのに忙しかった。今年最後の会員向け贈り物にふさわしく、読み応えのある内容で、満足している。思えば、あけぼの会を始めた1978年以来ずっとレター作りを続けてきた。大体患者会で会員のためにできることで、会員が心待ちしているものは定期的に届くお便り。あけぼの会はこれが不定期的でページ数もあるとこ勝負でまちまち。でも誰も不平をいわない。内容がいいのだ――と自画自賛。しかし、私も年ですぐに疲れて、今までのようには働けない。そろそろ見直す時期に来ていることを痛感。
●これからイギリスへ行くとまたあの恐怖の時差戦争が待っている。現地時間夜中の12時にデパスを飲んで寝ても、2時には目が冴え渡って起きてしまう。まあ、その時間は誰にも邪魔をされないので、ロンドン便りを書くのには困らない。これからの患者会の進むべき方向性をじっくり考えて書き出してみたいと思う。世界的のはどういう傾向なのだろうか。従来の患者会スタイルでは時勢に合っていないのを感じている。では一体どんなスタイルが今の時代のニーズに合っているのか、それをゆっくり考えて結論を出す。
●今年は悲しい年だったが、唯一、楽しかったのは韓国世界学会参加の旅だった。日本のあけぼの会をしっかり宣伝して、朴さんに案内してもらって、韓国の患者さんたちと仲良くなって、うれしかった。来年は日本に韓国の友を招待したい。悲しみとマンネリを打破するエキサイティングなプランを立てて、私に元気を出してもらわないと、このままでは自分を失くしてしまう。あんなに生きたかった富樫さんの分も生きなければ。