●散り惜しむブーゲンビリアの花四つ 伝えたきこと伝ええずして (2018/12/7)
●チュンチュンと催促の声いじらしや たんとお食べ われ万物の母 (2018/12/16)
●てっぺんのあの角部屋に住みたいと 見上げつ今年も銀杏の散りゆく (2018/12/23)
●朝に開け夕には閉めるカーテンが余命の一日(ひとひ)を平気で奪う (2018/12/31)
● 気配してふと見上ぐればはっと消ゆ 亡夫(つま)は一人で鬼ごとしてる (2019/1/7)
●パン投げるわれとも遊べ今朝もまた中の一羽を亡夫と決める (2019/1/13)
●いまに鳴る 呼吸(いき)とめて待つ訃の音が あの冬母はまだ生きていた (2019/1/20)
●生き死には一方通行 いま一度 きみのぬくもり シャンゼリゼの宵
(2019/1/28)
●ゆらゆらと 水絵に浮かぶゴンドラに 愛猫ジローと揺れてヴェネチア (2019/2/3)
●ゆく道の仕切り直しを今いちど 亡母(はは)の年まであと20年 (2019/2/10)
●子ら去りて夫(つま)逝きし後のさみしさを母も耐えたり小雪舞う午後(2019/2/17)
● 今朝もまた男物のみベランダに 赤があたたかアマリリス三鉢(2019/2/24)
● 今生に借り遺さずに逝くという富士にもいまだ登りおらぬを (2019/3/3)
● 蔦(つた)一つはらり舞い落ついとしきはオー・ヘンリーの「最後のひと葉」(2019/3/12)
●もう一度やり直しても同じ悔い 胸にしまって終点まで乗る(2019/3/18)
●道端に濡れてひしゃげた手袋のつぶやきを聞くわれも片割れ (2019/3/25)
●燃え盛るカリフォルニアの火の中へわが亡がらは投げ入れて来よ (2019/3/31)
● 「今日かぎりの命とおもえ詠めぬ日は」師は説くわれは頭(こうべ)を垂れる (2019/4/8)
●亡夫(つま)の名を花じゅうたんに寝転んで呼べば空からわれの名を呼ぶ
(2019/4/14)
●公園に老いは集うや六時半 みな確かめる今日の命を
(2019/4/21)
●抹茶色のベスト色褪せこれだけが母の形見よ乳の匂いす (2019/4/28)