国境の長いトンネルを越えるとそこは晩秋のパリだった。枯葉がまだ木々に半分残っていて、セーヌ川沿いの銀杏や楓はハラハラ危うげに秋の名残を告げていた。ロンドンからユーロスターでパリまでは3時間ではなく、たったの2時間20分だった。一昨年、セント・パンクレアス駅ができたとき、それまでウォータールー駅発で3時間要したのに、40分短縮したのが売りだったのをすっかり忘れていた。東京から京都か松本まで行く時間でなんとよその国に着く。新幹線に乗る感覚だが、当然、パスポートと荷物チェックがある。
列車に乗って、指定席番号を探していたら、やかましい日本語が聞こえている。しかも大阪弁(偏見持ってます)。思わず息子と目を合わせて「こりゃ、かなわんね」で、空いていた席に移って座った。しかし、同じ車両ではどこまで行ってもキャアキャア声が追いかけてくる。次の車両まで逃げた。なんだろう、このガキネエちゃんたちは。ここはヨーロッパ、大人の国、周りのお客に傍迷惑だってこと、わからんの。そこへ近ツーぽい(偏見ですね)ツアコンがこれまた大声で何か説明している。どうかやめてくれ、日本の恥だ。
幸い、我々は難を逃れてパリに着いた。駅で「日本のかたですか」と丁寧に聞いてきた若い女性がいて、ロッカーを探している、というので、総合案内で聞いてあげた。先ほどの軍団とそう年は変わらないのに、この人はとてもいい。どうして群れるとああも恥知らずになるのか。群れは、その日ホテルにチェックインしてから訪れたオルセー美術館にもいた。今度は若いニイチャン団体、高校生みたいなんだけど、確かめるのもいや。ここでも大声ではしゃいでいる。案の定、見張り役に「シーッ!」と注意された。日本の大恥。
これから海外に行く人には国際マナーチェックというのを日本政府でやってほしい。その昔、多くの国へ渡航するのに予防接種が必要だったように、こういうマナー欠如人種には尻に痛い注射1本が要る。あんな若年で、親のお金で、飛行機で外国に行くなんて、それもアジアの近い国ではなく、ヨーロッパだなんて、こっちの人たちには考えられないことだ。イギリスの高校生が修学旅行で日本まで行くか、行かない。スポイル日本は恵まれているのだろうか。「日本人はみな同じだからすぐにわかる」とは息子の言。没個性型。
4年前にまだ杖をついて歩いていた夫と娘とたずねたヴェルサイユ宮殿にも行った。息子はそのとき行ってなかったので、今回が初めて。何しろ膨大な庭園(100万?)は見る人を釘付けにする。そして感嘆。ナポリを見て死ね、というが、時間が許せばヴェルサイユも見てからにして。本当に見てみたい宮殿の中にまだ一度も入っていない。前回は大勢人が並んでいて諦めたのだった。今回はなぜか閉まっていた。私に3度目があるだろうか。
フランスに来たらフレンチオニオンスープ!二晩続けて堪能した。チーズの強烈な味が日本人の口に合う。東京でこのスープ専門店を開きたいといつも空想している。それほどに好き。4年前にみんなで行った思い出の店を捜し歩いて、足が棒になった。この2日間で一年分歩いたがごとき、息子に引きずられて歩き回った旅だった。メトロにも乗った。シャンゼリゼも歩いた。凱旋門も見た。エッフェル塔がキンキンラメラメに輝いていた。