●6月29日、30日と浜松での日本乳癌学会の患者セミナーと市民公開講座に参加してきた。患者セミナーは夕方5時から7時半までという時間帯だったので、どういう人たちが集まるのかと興味深かったが、患者が大半を占めていたのに驚いた。ただ、患者セミナーという名称通り、患者に分かるような話をするのかと思いきや、結構専門的で、またスライドの数も無数に多く、普通の患者は付いていけなかったと思う。そして、フロアーからの質問に立った人たちの質問が難しすぎて、何を聞いているのかがわからなかった。
●市民講座は学会長の渡辺先生が歓迎のあいさつをされて、私がショートスピーチをする時間をもらった。丁度前日に事務局へかかってきた電話相談の人が主治医を信頼できないというので、その理由を聞いてあった。「抗がん剤治療で髪が抜けてきたので、先生に『治療の効果が出て来ているのですね』と尋ねたら、『一概にそうとも言えない』と答えた。それで、がっかりしました」というものだった。医師の答えは間違っていない。しかし、患者は、髪が抜けるのを我慢していれば、がんが治っている、単純に、そう信じたいのだ。
●患者は以前に比べて賢くなっている、強くなっている、しかし、がんになったばかりの人に賢くなれというのは無理、だから、こんな幼稚で短絡的な思考をする患者もいることを医療者は忘れないでほしいと、明快に述べた。賢くて話が分かる、ある意味、楽な患者ばかりではない、中に再発して面倒な患者もいる。私たち患者も元気になると忘れがちだが、患者になりたてで何もわからない人、再発してもがき苦しんでいる人、そんな人たちを置き去りにするような医療であったなら、私たちが代わりに声を上げなければならない。
●渡辺先生と司会役を任されたパネルディスカッションはドクター3人とナースが2人、計5人のパネリストが前もって渡された質問に対する答えをスライドで紹介した。そのあと、主に私が疑問点をぶつけた。患者が知りたいこと、例えば、温存手術跡に満足していない患者があちこちにいる、そういう人が今保険適用になった再建手術を保険で受けられるのか、に対して、「2次的手術」という名目で保険で再建が可能であるとのこと。これは大きな救いだ。温存とは名ばかりで、ひどい手術跡に落胆してノイローゼになっている人がいる。
●「患者の体で遊ぶんじゃない」と私は小さい声で呟いてきた。そろそろ大きな声で叫んでもいいだろう。これからは思ったことは何でも明言することに決めた。非難を恐れ、保身のために、この私でも真綿にくるんだ言い方をしてきたこともあった。しかし、この年で、ここまで来て何を恐れるというのだ、失うものは何もないのに。これが私の強み、力。
●7月6日愛知講演会、次いで翌日は岐阜講演会、6日のうちに多治見に移動した。夕食は名古屋駅のスタンドでかき揚げきしめんを立って食べておしまい。何かすごいご当地ご馳走を期待していたのに、うどん1杯で済ませるとは。しかし、それがおいしかった、楽しかった。日本一暑い多治見は美しい風景の小さな村であった。あれは町と呼ぶべきか。二つの県の講演会で、地方の会員は、あけぼの会の存続意義を苦慮している私の心とは全くかけ離れた純朴さで、淡々と乳がん患者をやっている、という印象だった。だから、これからどうしたらいいのか、答えを探りに行ったはずが、手ぶらで帰ってきてしまった。