日 時:2025年7月27日(日)13:00~16:00
会 場:ふくふくプラザ601研修室(福岡市男女共同参画センター)
講 師:ワット隆子会長(あけぼの会)
田中眞紀先生(久留米総合病院・名誉院長)
矢永博子先生(矢永クリニック・院長)
黒木祥司先生(黒木クリニック・院長)
参 加:72名(先生3名、会長、会員39名、一般29名)
【内容】
連日の厳しい猛暑の中、3人の先生方とワット会長をお招きして、あけぼの福岡医療講演会2025を開催しました。じわじわと忍び寄るリンパ浮腫、気になる乳房再建、希望の乳がん最新治療はとても身近なお話で、みなさん熱心に聞き入っておられました。
まずは、ワット会長による『ご挨拶』から。冒頭から「今日は心の話をしたい!」ので、用意したスライドを使わないと宣言。一般参加者を含め初めて参加された方が4割ほど、また術後1年以内という方も3~4名おられるのをご覧になり、あけぼの会設立の経緯をご自身の乳がん体験と当時の心の動きなどとともにお話しされました。
また、故中村清吾先生とのエピソードや、すい臓がん判明後も以前と変わらない普通の生活を望まれた先生の、死を見つめて生きる勇気、最後まであきらめない勇気についてお話されました。熱の入ったお話は、「困ったら助けてもらって。助けを求めるのにも勇気が要る。勇気という言葉を忘れないで!」という言葉で締められ、参加者の心に強く暖かく響きました。
田中眞紀先生は最近ちからを入れて取り組んでおられる『キャンサーアピアランスケアとリンパ浮腫ケア』についてお話してくださいました。
がんやがんの治療にともなう外見の変化、その外見の変化で自分自身が非常に苦痛に感じていること、それがもともとの精神疾患によらない場合をキャンサーアピアランスというそうです。いまや「がん=死」ではなくなってきており、治療を継続しながら社会生活を送るがん患者のケアを行うことが重要になっているとのこと。具体的には脱毛、爪の変化、色素沈着、乳房の変形、リンパ浮腫などがこれに該当するそうです。
今回はその中から「リンパ浮腫」について、病期分類とその症状、合併症や治療法などについて、症例画像を示しながらお話してくださいました。保存的リンパ浮腫治療として行なう「複合的理学療法」の中のセルフケアは、時間を割いて丁寧にお話ししてくださりとても分かり易かったです。
また、県のアピアランスケア推進事業について、医療用ウィッグや補正パッド、弾性着衣等の購入費助成制度の紹介がありました。実施主体が市町村になるため、補助申請に関することはそちらに問い合わせるといいということです。(実施していない市町村もある)
リンパ浮腫は医療者にも悩みが多いそうで、昨年「北部九州リンパ浮腫治療研究会」を設立され、今年2回目の症例研究会を開催されたそうです。
田中先生が理事をされている「日本キャンサーアピアランス協会」の紹介がありました。ホームページ内の『キャンアピ美容部』では、お化粧の仕方や脱毛時の処置の仕方などを協賛会社や美容師さんたちが患者に向けて情報発信しているそうです。
治療の進歩は著しいので、さまざまなサポートを得て「生活や仕事、人生を楽みましょう」とお話を締められました。
矢永博子先生は『乳房再建のススメと最新情報』というテーマで、乳房再建の現状、再建方法の違い、インプラントの特徴などについてお話されました。
乳房再建の現状として、韓国53%、米国45%に対して、日本は再建希望者が13%ととても少なく、さらに九州では再建できる施設数に比べて希望する患者が少ない傾向にあるということ、希望しない方のアンケート結果に「家族の反対」や「乳房再建があることを知らない」という本人の意思以外の理由が含まれているのに驚きました。
再建方法の違いによる入院期間や体への負担、再建後の経過などを比較した表や画像を使ったお話しはとても分かり易く参考になりました。再建したら再発の発見が遅れるのでは?という不安がありましたが、インプラント法では局所再発を見つけやすいというお話に安心しました。
また、インプラントの刺激で悪性リンパ腫ができたという報告がありましたが、スムーズタイプはリンパ腫に関与しないと言われており、先生のクリニックではスムーズタイプのみを使用しているそうです。このスムーズタイプは持ち上げると重力でおっぱい型に下垂し、また、水分量が多いので冬でもあまり寒く感じないという魅力的なお話もありました。気になる入替に関しては、破損したら保険適応で入れ替えができるので、1~2年に1回定期的に外科でエコー検診を受けるといいそうです。
最後に乳房再建のトピックスとして、長く取り組んでおられる再生医療を用いた再建方法を紹介されました。胸以外に傷跡が残る自家組織や破損のリスクがあるインプラントの代わりに自分の脂肪で再建する方法です。脂肪注入法で再建した場合の問題点を解決する方法として、脂肪再生医療を用いて培養した脂肪を自分の脂肪に混ぜて移植することで、量的な問題と脂肪生着率を改善できるそうです。とても興味がわいてきました。
黒木祥司先生による『乳がんの最新治療薬』では、トロデルビ(サシツズマブ ゴビテカン)、ダトロウェイ(ダトボタマブ デルクステカン)、ターゼナ(タラゾパリブトシル酸塩)、トルカプ(カピバセルチブ)という4つの新薬について、それぞれの使用対象や作用機序、投与方法や副作用について、薬価を含めてお話されました。
ホルモンレセプターとHer2/neuの有無で4つのタイプに分かれて治療法が異なるが、最近ではそれ以外の性質を調べることで治療の選択肢が非常に増えてきているということです。今回紹介された4つの薬剤は、他の治療が効かなくなった再発乳癌に有効で、PFS(無増悪期間)を有意に延ばし、OS(全生存期間)を延ばしているものもありました。再発しても新しいお薬が次々と開発されている、と生きる希望が湧いてきました。
紹介された薬剤以外にも、経口投与できるSERD(選択的エストロゲン受容体分解薬)が近日中に発売される予定ということですが、いずれも高額で多様な副作用が出ているので、万が一にもこのような薬剤を使わないで済むように、早期診断、早期治療が重要ということでした。
報告 あけぼの福岡代表 小西洋子 akebonofk@gmail.com